『ユリディケ』第2部の連載を終えて2019年10月24日 17:41

『ユリディケ』改稿版、第2部の連載が終わりました。

第Ⅰ部と同じく、サラファーンの星とのつながりを、より感じられるようにと思い

登場人物の性格や設定の微調整、地名や植物、食べ物のディテールなど、

最初にざっと書きなおしたときよりも、かなり手を入れることになりました。


物語そのものや、流れは変わっていません。

やはり、初めて書いたときの新鮮な感覚は、大切にしたいと思いました。

 

キャラクターとして最も手を入れたのは、ヨルセイスです。

『ユリディケ』ではまったくの脇役ですが、サラファーンの星を書く段になって、

謎めいた過去を持ち、深い哀しみを秘めていることがわかってきたので、

そうしたことが、少し感じられるといいなと思って。

 

今回は、彼が、持ち前の優れた戦闘能力を発揮するシーンはありませんが、

武術に秀でていると同時に、繊細さとやさしさを兼ねそなえた存在として

ところどころに顔を出してもらいました。


サラファーンの星の終盤では、ある灰色の騎士との死闘もあり、それは

二千年の歳月を経てなお、彼の心に暗い影を落としているだろうと思いました。

そのことは、ちらっとほのめかすだけに留めましたが、やはり外せない要素でした。

 

ヨルセイスの葦毛(あしげ)の馬は、シルフィエムという名です。

(「夜明けの風」を意味するフィーンの古い言葉、という設定です。)

サラファーンの星では、カタカナ名が多いので、煩雑さを避けるため

単に「葦毛」あるいは「フィーンの葦毛」としたのですが、

今回は登場人物も少ないので、大丈夫かなと判断し、一か所だけその名を入れました。

ようやく出せて、ちょっと嬉しかったです。

 

ユナの時代の地名には、二千年前の地名を引き継いでいるものもあります。

サラファーンの星の二巻と四巻に登場する港街スリン・ホラムも

おそらくそうだろうと考え(旧バージョンには出てきませんが)

デュー・レインとワイス大尉の故郷として、名前だけ登場させました。

彼らの前世に縁の深い街です。

きっと、申し合わせて、同じ街に生まれてくるんじゃないかなと思って。

 

『ユリディケ』を書きあげたあと、前世の物語がたくさん浮かんできた人物の

ひとりが、デュー・レインが最も信頼する部下、ワイスでした。

そうして彼は、前日譚では重要なキャラクターのひとりとなりました。

今回、改めて『ユリディケ』に戻ってみると、本当にちらっとしか出てこないし、

デューとの関係も、なんだか薄い印象でした。

物語は変えたくないので、出番はほとんど増やせませんでしたが、

上官と部下ではなく、もっと対等な間柄にして(軍での階級はデューの方が上ですが)

厚い友情が感じられるように書き換えました。

また、ワイスが戦死した弟について語るシーンは、ナイーブすぎる気がしてカット。

恋人を想っている(と彼の表情からデューが思う)シーンを入れました。

(本当は、その恋物語も入れたかったのですが、そんなことをしていると、

どんどん話が横道に逸れるので、それはあきらめました。)

 

ディテールに関しては、マレンの木を登場させました。

四部作では、真冬のギルデアに、柑橘系の香りのする白い花を咲かせるとして、

たびたび出てきた灌木です。

かつて、デューやワイスと、マレンの大地を渡ったヨルセイスは、今回もまた

彼らとその大地を渡ります。そして、ユナとルドウィンも。

石榴のような赤い実をみのらせる栗麦(くりむぎ)や、その栗麦粉で作るパン、

サラファーンの星を書きながら、目に浮かぶようだった紺碧の南アルディス海も

遠乗りのシーンで、少しだけ、登場させました。

 

11月からは、第3部「光と影を制する者」に入ります。

サラファーンの星四部作は読み終えて悲しくなったという感想もいただきます。

『ユリディケ』にいたる道として、「悲しい伝説」の時代を描いたので、

メインの人物も半分姿を消し、どうしても悲劇的な要素が強くなりました。

それでも、希望の感じられるエンディングにしたつもりです。

(あれで?と突っ込まれそうですが…)


個人的には、ハッピーエンドが好きです。(例外的に、好きな悲劇もありますが。)

『ユリディケ』は、読み終わったとき、幸せな気持ちになっていただきたいと

思っています。

エピローグを入れて残り10章。

最後までおつきあいいただけたら嬉しいです。

友との約束 タイムリミットは半年!2019年05月29日 18:01

先日、『ユリディケ』のアイデアを打ちあけたとき、真摯に聞いてくれて、それ以来

ずっとわたしを信じてくれた友だちのことを書きましたが、今日は、時を同じくして

創作に身を捧げていた友だちとのエピソードを。

 

彼女は高校のクラスメイト。

大学では美学美術史を専攻し、卒業後、繊細で独創的なクラフトアートをデザインし、

その作品を載せた本を作ろうとしていました。

ちょうどわたしも『ユリディケ』に取りかかったところでした。

そこでお互い、半年で本を仕上げようと約束したのです。

期限がないと、いつまでもぐずぐずしてしまうから、と。

 

半年後、彼女は本の草案を完成させ、わたしも初稿ができていました。

そして、その後、わたしたちの本は、それぞれ世に出ることになったのです。

それには、どちらも、もう少し時間がかかりましたけれど。)


彼女はサンリオ出版から『クリスマスリース』を上梓。

六本木の画廊と新宿伊勢丹で、本に掲載した美しい作品の個展も開きました。

 

わたしは、子どものころから、なにをするにもとってものろま。

幼稚園の時は、給食を食べるのが遅くて、

みんなが帰っても、いつまでもいのこりさせられていたものです。

『ユリディケ』も、物語が浮かんで頭の中で展開していくペースは速かったのですが、

彼女との約束がなければ、それを文章にするペースは、絶対にゆっくりで、

もしかしたら、何年もかかっていたかもしれません。

それを一気に書き上げることができたのは、彼女との約束があったおかげでしょう。

 

現在彼女はロサンゼルス在住のアーティストとして活躍しています。

天上的で美しく、独自の世界観に彩られた絵画は、見ていると、遙かなる世界に

誘われるようです。

 

ありがとう、Yuka。是非また日本で個展を開いてね。待っています。

『ユリディケ』第Ⅰ部の連載を終えて2019年05月11日 20:33

『ユリディケ』新バージョン、第Ⅰ部の連載が終わりました。

天真爛漫だけど本当は寂しがり屋の少女。十七歳のユナの恋と友情と冒険の物語。

第Ⅰ部「虹色の蝶」は、ユナが、伝説の英雄の生まれかわりで、

失われた光の剣を探す運命と知らされ、危険が迫るなか、旅立つまでを描いています。


ネット連載は初めてで、戸惑うことも多く、また、手直しする部分も、

当初考えていたより多く、1月の開始からあっというまでした。

 

背景となる内戦や地形、人物の年齢や性格、心情などの直しや調整のほか、

旧バージョンには登場しなかった銀色狼をちらっと登場させたり、

ユナの夢のシーンを、古代の街から銀の森のへと舞台を変えたり、

ヒューディの将来への希望も変えたりと、細かい点もかなり改稿しました。

ただ、もちろん、骨格や大筋は変わっていません。

 

サラファーンの星は、大勢が主人公の群像劇ですが、ユリディケはユナひとり。

話も短く、スケールも趣もずいぶん異なり、時代の流れとは逆に、こちらが先に浮かび

それがすべての始まりだったからか、ユリディケのほうが序章のように感じています。

それをサラファーンの星の「終章」として大きく書き変えるのは、

なにか違うという気がしました。


20代のわたしは、この物語を書いているとき本当に幸せでした。

そのときの情熱や思いを大切にしながら、

サラファーンの星を描いて初めて得ることができたエッセンスを加え、

できる限りこうあるべきだという形に仕上げる。

正しいかどうか、よいかどうかは別として、それが、わたしの直感でした。

 

5月22日から始まる第2部「ダイロスの剣」では、ユナが光の剣を見出すまでの旅を、

ラスト、第3部「光と影を制する者」では、剣を見出してからの旅を描いています。

どうか、楽しんでいただけますように。

あなたを信じる人が世界にたった一人でも2019年05月07日 20:55


デルフィニウム優しい友のような清楚な花 photo by fumiko

最初にユリディケのアイデアが浮かんだとき、わたしは広告代理店に勤めていました。

いつか物語を世に出したいという夢を、そっと胸に抱きながら。

わたしの仕事は、制作局の雑用係。社内外の郵便を配るのも仕事のひとつです。

制作の副社長室にも手紙や書類を届けるうちに、副社長の秘書と言葉を交わすように

なりました。

 

少し年上で、音楽を愛する彼女は、ひかえめだけど、よく笑い、冗談も大好き。

なにごとにもとらわれない自由な人で、

世間の常識よりも、自分の思いを大切にしていました。

副社長は少しばかり気難しく、激高することがあり、社員から怖れられていましたが

(目撃情報によると、しばしば、コーヒーや灰皿が宙を飛んだ)

彼女はそんな副社長に対しても、あまりに理不尽で間違っていると思えば、

とてもおだやかに、でも堂々とそう指摘する人でした。

副社長も、そんな彼女の言葉を、はっと我に返ったように素直に聞いていたようです。

 

彼女はまた、正直で、つねに前向きな人でした。わたしは、そんなところにも惹かれ

いろんな話をするようになっていきました。

そしてある日、心の中で徐々に形をとりつつあるファンタジーのことを話したのです。

もう夢が、心をいっぱいに満たして、あふれんばかりになっていたので……。

 

わたしは、それがどんな物語かを話しました。

それを本にして、わたし自身が物語を追いながら感じているときめきを、喜怒哀楽を、

読む人にも感じてもらいたい、心から楽しんでもらいたいと話しました。

そして、目に見えないもの、愛や希望、やさしさの大切さを感じてもらえたらと

願っていると。

 

熱心に聴いてくれたあと、彼女はいいました。

「素晴らしい夢ね! きっと実現するわよ」

心からそのことを信じて、いってくれているのがわかりました。

 

そんな夢みたいなことを、と笑ったりせずに、

わたし以上にわたしのことを信じてくれる彼女の存在が、どれほど心強かったことか。

そのおかげでわたしは、どうせ書けるはずないよね、などと余計なことを悩んだりせず

まっすぐに創作に向かえたのです。

 

自分の力不足に落ち込むことも、数え切れないほどありましたが、そんな時も、

彼女はいつも応援してくれました。絶対にだいじょうぶ。あなたならできる、と。

本当に、ユリディケ誕生の女神さまです。

 

どんな夢でも、同じ。

誰か、世界でたった一人でも、自分のことを信じてくれたなら、人はきっと頑張れる。

その夢を実現できる。

そしてまた、人生に絶望したときも、誰かたった一人でも、気にかけてくれたなら

人は生きていけるのではないか。そう思っています。

ユリディケの歌〜ふたつの物語を結ぶ詩(うた)2019年04月30日 10:21

『ユリディケ』冒頭の詩は、〈サラファーンの星〉四部作とこの後日譚を結ぶ詩です。

四部作に登場するある人物が作ったという設定で、その人の名は『ユリディケ』の本文中に

出てきますので、名前だけは、そのときから決まっていました。

(でも『ユリディケ』を書いている間は、彼に関してはほとんど何も知りませんでした。)


改稿にあたり、漢字を二か所変えましたが、読みは同じです。

(序まり→始まり 雪溶け→雪解け)

また、クリックしてページを開けるようタイトルをつけました(これ、悩みました!)


 明日から新たに訪れる令和の時代が、平和で光に満ちた時代となるよう祈りながら、

平成最後のブログをしめくくりたいと思います。


  〈ユリディケの歌〉

  やがて闇が天を覆い
  氷が地を閉ざすとも
  暗黒の長き冬は
  始まりの前の終焉

  死の吹雪の彼方から
  生の息吹はめぐりくる
  早春のヴェールをまとい
  女神リーヴが地に降りたつ

  あらたなる祝福に
  大地は永い眠りから醒め
  大いなる栄光に
  歓びの賛歌を謳う

  雪解けの水は調べ
  若草は野に萌えたち
  時満ちて戻りしもの
  天使ユリディケが矢を放つ

  青く輝く生命(いのち)の矢は
  失われし光を降りそそぐ
  偽りの永遠は無に還り
  真実の永遠が甦る