薬草使いの少年Part32022年10月08日 18:23

リーのことで、執筆中からずっとわからないことがあると書きました。

 それは、三粒のダイヤモンドを守ったのは、リーか?

あるいは、二千年前の幼いトゥーリーか? ということです。

 

リーは夢で、黒衣の男(かつてダイロスの師であったガリウス)が

フィーンのダイヤモンドに刃を入れる夢を見ます。

二千年前、ガリウスが、ダイヤモンドから光の剣を切り出す瞬間です。

夢の中のリーは、魂となって浮かんで、その様子を見ていますが、

ダイヤモンドの切り口から、涙のような雫がきらきらとこぼれ落ちたとき、

思わず身体がないのも忘れ、小さな手をさしのべます。

 

光の剣が切り出されたあと、

残りのダイヤモンドは光となって消えてしまいますが、

本当ならたくさん残っているはず。

それで王冠を造らせようとしていたダイロスは、怒り狂います。

どこに隠したかガリウスを問い詰め、家臣たちに工房を探させますが、

光となって消えたダイヤモンドは、当然見つかりません。

一方、密かにこぼれ落ちた三粒の雫は、小さな手の中で守られ、

その後、ガリウスに見いだされます。

 

二千年前、ガリウスがダイヤモンドから光の剣を切り出したのは、

最果ての国に住む男の子トゥーリーが、旅芸人にさらわれたすぐあとのこと。

小さなトゥーリーは二歳でした。

 雫を手にするシーンのイメージは、小さな男の子の、小さな手だったし、

トゥーリーの魂は、昔からガリウスともルシタナともゆかりが深かったから、

ダイヤモンドが切り出された瞬間、空間を超えて、

その雫を守ったのかなと思っていました。

ガリウスは、三粒のダイヤモンドを密かにブレスレットにして、

のちに、盗賊となったトゥーリーと地下牢で出逢ったとき、

彼に託して脱獄させます。)


そんなわけで、リーが姉のラシルに、その夢のことを打ち明けるとき、

彼はこんなふうにいいます。

「ぼくはまだ幼くて、小さな手のひらの上で、大きな雫が三粒、さざめくように

輝いていたよ」

 

でも、書いているうちに、もしかして、この男の子って、今のリーで、

時空を超えて、ダイヤモンドの雫を守り、ルシタナとユナを助けたのかな、

とも思えてきました。

時間はまっすぐに流れているわけじゃないというし、そういうこともあろうかと。

 

で、いまだにそれはわかりません。

時空を超えて、ふたりは同一人物だから、両方ってこともあるかもしれないし。

そこは、読む方それぞれの好きなように解釈してもらえたら、

一番いいかなと思っています。

 

ところで、今回、フィーンの船の中で登場する干し杏の入った焼き菓子ミンカ。

こちらは、リーが小さなトゥーリーだったとき、母親がいつも焼いてくれた

トゥーリーの大好物。

〈サラファーンの星〉では、その母親がミンカを焼いているあいだに、

庭に出たトゥーリーが、通りかかった旅芸人に連れ去られてしまいます。

トゥーリーにとっての、大切な味。

だからもう、二千年ののちも、そのお菓子に夢中になってしまいます。

今回も、その母親とリーは、いつかどこかで会えるに違いありません

薬草使いの少年Part22022年09月30日 13:47

今回は、リーのお話の二回目です。


二千年前。

リーが黒のジョーで、グルバダがダイロスだったころ、

大いなるダイヤモンドのほかにもうひとつ、

ダイロスが探し求めていたのがありました。

それは、紫の菫石(すみれいし)が中央にきらめく美しい額飾り。

その時代からさらに二千年さかのぼった古代アルディス王国で、

国王が花嫁に贈ったという伝説の額飾りです。

ダイロスはその国王。

黒のジョーは、竪琴を奏でながら、愛と平和を歌う詩人でした。

そして、王の侵略戦争を止めようとして、処刑されます。

ユナが夢で逢うリーの姿は、この愛の詩人アローディのイメージ。

〈サラファーンの星〉の第一部、竪琴を奏でて歌う若者の夢を

リーヴ(レアナ)が見るのですが、そのシーンと重ねました。

 

さて。愛の詩人だった前世など、とんと覚えていない黒のジョー。

盗賊仲間と、伝説の額飾りのありかを見つけたものの、

ダイロスの放った灰色の騎士の襲撃を受け、

仲間を全員殺された上、地下牢に入れられるはめに。

 

このときの盗賊仲間、ひょろりとした若者ジジは、

ジョージョーを思って描きました。

黒のジョーと仲間たちは、盗賊の親方から兄弟のように育てられ、

(ジョーはひとり生き残ったことで自分を責めていたけれど)

お互い会いたかったに違いありません。

『ユリディケ』の改稿は、彼らが自然な流れで会えるようにと

思いながら進めて、最後も、リーとジョージョーが、

しばらく一緒に過ごせたらいいな、と思いました。

ほかの仲間とも、いつか会えるといいな。

 

ところで、黒のジョーは幼いころ、旅芸人の一座にさらわれ、

その後、盗賊の親方にひろわれて、教育(?)を受けるので、

盗みの腕はピッカピカ。

リーとして生まれ変わっても、その腕は健在で、

迷宮跡に強制連行されたあと、大いに役に立つことになります。

そのことがわかるリーのセリフが、こちら。

(物語中には、入れるところがなくて、カットしました

 

「村にいたころ、旅の一座がやってきた。

実際は、旅芸人をよそおった盗賊団で、芝居とそのあとの宴のあいだ、

一座の裏方が密かにみんなの金品を盗んでまわった。

ぼくはそれに気づいて、反対に、一座の持ち物をくすねてまわり、

やつらが盗み出したものが入った麻袋の中身と入れ替えておいた。

やつらは二度と戻ってこなかったよ。

お祖母ちゃんはいった。わかっていておくびにも出さないとは、

手強い村だと思ったのだろうって。

たぶん村の人たちは、いまでも彼らを旅芸人の一座だと信じてる。

ぼくがしたことに気づいたのは、お祖母ちゃんだけだったから。

お祖母ちゃんはいったよ。おまえがあの一座についていったら、

将来さぞ優秀な座長になったに違いないって」

 

リーの大好きなお祖母ちゃん。

自然の中を歩き回ったり、家の外回りの仕事もするから

日焼けして魅力的なしわがたくさんあって、長い白髪をさらりとまとめて、

凛とした女性が、いつも頭に浮かんでいました。

(近いのが、ヴァネッサ・レッドグレイブのイメージ。

映画や舞台で主役を何度も演じ、アカデミー賞など受賞歴も華やかだけど、

『ディープ・インパクト』や『つぐない』の脇役も印象的です。)

広くやさしい心の持ち主ですが、主張すべきことはきちんという人物。

両親を早くになくしているリーたちには、唯一の肉親。

そんな祖母を目の前で兵士に殺され、リーは怒りのあまり、

兵士に立ち向かって、こめかみに深い傷を負います。

その後も、くっきり残ることになるその傷痕は、

黒のジョーのこめかみの傷痕と重ねました。

(ジョーは灰色の騎士に捕らえられたあと、壮絶な拷問を受けて

迷宮の地下牢に放り込まれ、こめかみに深い傷痕が残ります。)

 

本当は、〈サラファーンの星〉を完成させる前に、『ユリディケ』を改稿し、

もう一度、世に出したかったのですが、それはかないませんでした。

そうして〈サラファーン〉を書き終え、『ユリディケ』に戻ったとき、

あれほどフィーンのダイヤモンドに執着していたダイロスが

そう簡単に最期を迎えるはずはないこと、

また、ジョーが出てこないはずがないことに気づいたのでした。

もしもあのとき、『ユリディケ』の書き直しを先にしていたら、

リーという存在は生まれていなかったでしょう。

 

そのリーに関して、執筆当時から、いまだにわからないことがあります。

その話はまた、ゆっくり考えながら、書きますね。


まだ長時間パソコンを見ていると、あとから疲れが出て、

翌日寝込んだりしちゃいます。

そこで、体力を取り戻そう!と、散歩していたら、転んで足首を捻挫。

整形の先生に「しばらく運動厳禁ね」といわれてしまいました(TT)

でも、整形は母をリハビリに送迎している病院なので一石二鳥(?)だし、

その程度ですんで、よかったです。

薬草使いの少年Part12022年09月26日 23:22

更新が遅れてごめんなさい。調子を崩してしまい、だいぶ復活したところです。

で、今回は、リーのお話でしたね。

 

薬草使いの少年リーは、姉のラシルとともに、

『ユリディケ』の新バージョンにあらたに登場するキャラクターです。


ここでちょっと、前日譚〈サラファーンの星〉のお話を。

 

最初に『ユリディケ』を書き終えて、サラファーンに取り掛かったとき、

冒頭の詩「ユリディケの歌」を書いた詩人を、登場させたいと思いました。

『ユリディケ』では、その詩のほかは、

伝説の詩人として、物語中にちらっと名前が出てくるだけですが、

二千年前は、(詩人となる前に)

ルシタナとなにか縁があったに違いないという気がしたのです。


そうして生まれたのが、黒のジョー。

数奇な運命によって、大いなるダイヤモンドの欠片で作ったブレスレット

「星の雫」をルシタナに届けることになる盗賊でした。

(本当の名は、トゥーリー・ヨハンデリですが、幼いころにさらわれたので、

物語の終盤になるまで、そのことを知りません。)

 

で、今回、改稿するにあたって、考えました。

四部作全体の鍵を握るキャラクターが、

『ユリディケ』に全然出てこないってありえないよね、

二千年前の伝説の詩人として、冒頭の詩と名前だけは出いるけど、

そうじゃなくて、きっとまた生まれてきているよね、と。

 

では、それはいったいどんなキャラクターなのか?

そんなことを思っていたある日、

薬草使いの少年と少女の姿が見えました。

少年は黒い巻毛。盗賊は巻毛ではなかったけれど、瞳は同じ濃い鳶色。

あ、この子だ!

リーという名前も浮かびました。

おそらく、正式にはトゥーリー。(家族から、愛称のリーで呼ばれるうちに

誰もトゥーリーと呼ばなくなったんじゃないかな。)

 

少女は姉。ふたりがいるのは、ダイロスの迷宮跡。

ユナが灰色の騎士に連れ去られるギルフォスの宮殿です。

この姉弟も、ドロテ軍に強制連行された身だという気がしました。

 

登場人物には、自分からいろいろ教えてくれるキャラがいます。

リーもそのひとり。

言葉の遅い子どもで(前世のトゥーリーもそうだった)、

村人からは、ちょっと頭の弱い子だと思われていて、

姉のラシルはしっかり者。

ふたりが宮殿に連行される前の平和な暮らしが次々と見えました。

蒼穹山麓の石工の村で、薬草使いの祖母を手伝って暮らす様子や、

その祖母が、夜ごと炉端でルシタナの伝説を聞かせているシーン、

その平和な村に、ドロテ兵がやってきて、

石工たちとともに、リーと姉を連行するシーンなどなど。

 

前世で迷宮の地下牢から脱出した彼にとって、そこは一度はいたところ。

もちろん、そんなことは覚えていないけれど、

リーは、宮殿の薬草使いとして、一見、従順に働きながら、

密かに、宮殿の中や地下の洞窟を探ります。

それがすべて、ユナを助けることにつながっていくんだとわかりました。


ただ、最初からすべてが見えるわけではありません。

姉弟のキャラクターはわかってきたけど、この先、

 11歳のリーと14歳のラシルが、ドロテ軍の大人たちの中で、

どうやってユナを助けるのか?

リーはとにかく前向きで、決してあきらめないタイプ。

でも、 姉のラシルは心配でなりません。わたしも不安でした。

だいじょうぶかなぁ…。


それでも、リーを信じて、まずは、

リーとユナが時をこえた絆で結ばれていることを暗示する

ユナの夢のシーンを入れました。

 

また近いうちに、Part2を書きますね。


ところで、ものすごい台風が立て続けに来ました。名古屋も風がすごかった…。

被害に合われた地域の一日も早い復旧を祈っています。

亡くなられた方もいて、胸が痛みます。温暖化の影響や、盛土の問題。

どうやって、未来を守るか? 真剣に考え続けていきたいです。

黒のジョー 神出鬼没の心やさしき盗賊2020年02月14日 14:46

黒づくめの盗賊、黒のジョーは、最初からはっきりしたイメージがありました。
黒髪に、強い意志を感じさせる濃い瞳。
孤独を友とし、身のこなしは野生の猫のようにしなやか。
仕事(?)は大胆で、卑劣な人間は容赦しないが、女性や子ども、弱い存在にはやさしく
魅力的な笑顔を見せる。そんなイメージです。
相関図を作ろうと決めたとき、ざっと描いてみたのが、こちらのラフスケッチ。

黒のジョー・ラフスケッチ

このイメージから、鉛筆でスケッチを描き起こし、水彩色鉛筆で、まず顔に
色を入れてみたのが下のスケッチ。
(もう少し野性的な感じにしたかったのですが、素人にはハードルが高かった…。)
このあと、髪の色とシャツの黒をぬって、スケッチを完成させ、
デザイナーの畠山さんにスキャンしたデータを送り、CGにしてもらったのが
公式サイトのキャラクターページのイラストです。

黒のジョー・スケッチ

盗賊の親方に拾われて育てられた孤児のジョーは、サラファーンの星四部作の中で、
もっとも過酷でドラマチックな人生を生きるキャラクターのひとり。

賞金のかかったお尋ね者ですが、『星の羅針盤』で暗示されるように、
前世では、愛と平和をうたった詩人で、
戦争を止めようとして、反逆罪で処刑されました。
そのときに、ずっとよりそっていたのが黒猫のアイラ。
時を超えて、黒のジョーとしての彼のことも、助けに現れます。

『星の羅針盤』では、もうひとつ。
ジョーは、フォーディルの村で二歳のときに疾走した少年だったことを
ほのめかしていますが、ジョー自身は、なかなかそれを思い出しません。
それでも、命の危機に陥って、二度昏睡状態になったときには、
それぞれ、その通常とは違う意識の中で、幼い頃の出来事を思い出すのです。

人生には、幸と不幸が、不運と幸運が交錯するときがあります。
二度も瀕死の重傷を負う、という不幸な出来事も、ある意味、ジョーに
自分が何者なのかを知らせる、大切な機会だったと言えるかもしれません。

ジョーは、最初から強い自己主張をしてきたので、とても描きやすかったです。
男爵の馬車を襲うシーンから、3人の仲間も含め、ありありと映像が
浮かびました。
男爵から邪険に扱われている男爵夫人には、とても優しい紳士のジョー。
若く美しい男爵夫人が、ジョーが立ち去る際、思わずキスしてしまうのも、
ごく自然な成り行きでした。

「あなた、黒のジョーね?」
「それは本当の名じゃない」
「じゃあ、本当の名前は?」
「あいにく、覚えてないな」
男爵夫人と交わすその会話は、のちに別の場面で何度か登場する
とても便利なセリフとなりました。
(そのときには、後で出てくるとは思わなかったのですけれど。)

女性には全般的に優しいのですが、恋人のいないジョー。
描きながら、誰と恋に落ちるのかなと思っていました。
あの子かな、と思った予想は見事に外れ、ここでもジョーは自己主張をして、
わたしにとっては意外な女性と恋に落ちました。
その恋の行方がどうなるのか、最後の方までわからなかったので、
本人たちの声に耳を澄ましながら(というのは、相手の女性も、かなり強い
主張をするキャラクターで、作者の言うことにちっとも耳を貸さない)
ちょっとドキドキしながら描いていました。

ジョーの話は、たくさんあるので、またいつか続きをしますね。