『星の羅針盤』〜つかのまの平和な日々2020年02月17日 17:34


『星の羅針盤』書影

〈サラファーンの星〉は、第一部から第四部まででひとつの物語ですが、
四部とも、それぞれ違う雰囲気の本になっています。

第一部『星の羅針盤』は、戦火を逃れてきたリーヴの一家が、最果ての国の
伯父の家、サンザシ館で過ごすつかの間の平和なひとときを描いています。

村外れの森に住むフィーンの娘との出会いと交流という、非日常の出来事や、
伯父の過去には秘密があることが暗示され、
のちに戦争が影を落とし、戦乱の時代が来ることを、ほのめかしながらも
全体としては、まだ毎日がきらきらと輝いている世界です。

第二部『石と星の夜』はスパイたちが暗躍する陰謀の物語、
第三部『盗賊と星の雫』は地下牢に囚われた盗賊の目を通して、サラファーンの星
(フィーンのダイヤモンド)にまつわる過去の物語、
第四部『星水晶の歌』は、滅びゆく世界を背景にした戦争や冒険ものという要素が
強いでしょうか。
世界を救おうと奔走する者たちと、それをはばむ力との最後の戦いの物語です。

今日はまず、『星の羅針盤』の舞台裏のお話を。

冒頭の書影は、文庫版のものです。
本の見本ができてくるときには、ジャケットや帯がどんなだろうと、
いつもドキドキします。
『星の羅針盤』は、単行本とは変えますと言われていましたが、
見本が届いたとき、単行本とものすごく違うのでびっくりしました。
ダイヤモンドの剣も、かなり違います。わたし自身のイメージは、単行本の
細身でシンプルなイメージが近いのですが、
文庫版のがきれいだと言ってくれる人もいたり、リーヴのイメージもそれぞれで、
百人いれば百通りだなぁと感じ入ります。

帯のキャッチコピーは、「預言の英雄はどこに」でしたが、
こちらは、あ、ちょっと違うかな、と思いました。
プロローグで、預言者が、さだめられた英雄が誰かよりも、
われわれがいかにあるかが大切だと語ったように、
この四部作は、剣の探索に行く者だけではなく、ひとりひとりが成すべきことをする
群像劇としての物語なので、そのことがわかるコピーを、わたし自身が考えて、
提案してみればよかったのかなと思ったりもします。
ファンタジーは、やはり、英雄物語、というイメージが強いのかもしれません。

この第一部。30年前に草案を書いたときは、黒のジョーとその一味が
男爵の馬車を襲うシーンはありませんでした。
また、ランドリアが暗殺事件にかかわったハンターを追い詰めるシーンも
ありませんでした。
ただ、当時原稿を読んでくれた理論社の岸井さんから、事件が少なすぎるとアドバイス
してくれて、第二部に入れる予定だったそれらのシーンを、前倒ししたのです。
それでもまだ退屈、という意見もあったのですが、
あまり最初から登場人物を多くしたくなかったので、そこは難しいところでした。

『星の羅針盤』には、さり気ないシーンにたくさんの伏線を張り巡らせました。
一度読んだだけではわからないように。けれども、ちゃんと描いておくことで、
「フェア」になるように。
たとえば、ダン伯父さんとジョサ、ハーシュの異母兄弟の秘密は、第二章から入れて、
全般にわたってちりばめました。
注意深く読めば、あれ?もしかして、と感じられるように。
行方不明のトゥーリーの話も、第二章に早々に登場させました。

わたしは、子どもの頃から、気に入った物語を何度も繰り返し読むくせがあります。
二度、三度読んでも、そのたびに新しくなにかを発見できる物語も好きなんです。
もちろん、この四部作を二度読まれる方はめったにいないでしょうけれど
(こんな長い物語、一度読むだけでも時間がかかって大変ですよね!)、
もしもぱらぱらと読み返したとき、あ、ここにこんなことが書いてある、などと
楽しんでいただけたらいいなと思っています。

星の王子さまの切手とリーヴのポストカード2019年12月16日 17:57


リーヴ〜星の羅針盤 by Suzuko Makino
どうなるのか祈るように見守っていたCOP25。期日を延ばしたのもむなしく、
温室効果ガスの削減目標引き上げは、来年に持ち越されました。
会期中、日本は、地球温暖化対策に後ろ向きな国として、二度も化石賞に
選ばれてしまいました。

政治家や実業家は、もっと科学者の話に耳を傾けるべきなのに、本当にはがゆいし
心配です。Macも壊れるし、落ち込みがちでした。
そんなとき、牧野先生が、「星の羅針盤」の単行本版ジャケットのイラストで
ポストカードを作ってくださいました。

嬉しくなって、何人かの友だちに手紙を書いて、郵便局に出しに行くと
星の王子さまの切手が発売されていました。
先日、井戸の逸話を思い出してこのブログにつづりましたが、
本当に、大好きな物語。(早く知っていたら、星の王子さまの切手をポストカードに
はったのですが。)
アメリカの友だちの分も買いました。63円のも84円のもどちらも素敵です。
84円の方は、物語が進む順に、絵柄が並んでいて(井戸の絵も!)
それを見ているだけで、お話を思い出して、胸の奥が痛くなります。(特に右下の絵!)

星の王子さまの切手

よかったら、クリック拡大して見てみてくださいね。

王子さまが、いまの地球の気候の危機を知ったら、どんなに悲しむでしょう。
残された時間で、それぞれができる限りのことをしなければなりませんね!

『この世界の片隅に』に寄せて2019年08月03日 18:41

今夜NHKで『この世界の片隅で』がオンエアされます。

 

舞台は広島。当時日本一の軍港だった呉の戦時中の風景が生き生きと描かれ、

主人公のすずたちが、大和と武蔵を望むシーンも登場します。

海軍に所属していた母方の伯父たちも呉にいたので、そんな呉の光景が、

とても胸に染みました。

伯父のひとりは、戦争で亡くなっていますが、よく母から話を聞いたものです。

 

映画では、戦時下のすずの日常が丁寧につづられるなか、そのかけがえのない世界が

戦火によって失われゆくさまと、それでも生きようとする人々の姿が、

決して声高ではなく、静かに描かれています。

 

サラファーンの星で描きたかったことのひとつも、なにげない日々の愛おしさでした。

第Ⅰ部の『星の羅針盤』は、田園地帯を舞台にした日々の営みが中心で、

事件が少なく退屈という声もありますが、実はその中に第2部以降の伏線がたくさん

張ってあります。

そしてなにより、戦争が生活を一変する前のなにげない日常を、その喜びと悲しみを、

失われる前の最後のきらめきを、つづっておきたかったのです。

 

失って初めて、大切だと気がつくものがあります。

平凡な暮らしも、当たり前だと思っていた地球環境も……。

『この世界の片隅に』の原作者こうの史代さんは、広島出身の方だそうです。

この美しい世界を、平和でおだやかな世界を、後の世代に残したいという思いは

人一倍強く持っておられるに違いありません。

 

広島に原爆が投下されてから、七十四回目の86日がやってきます。

長崎では、89日にその日を迎えます。

進められてきた軍縮が、軍拡へと時代を逆行しようとしているいま、

手を取りあうことよりも分断が叫ばれるようになったいま、

たくさんの人に観てほしい映画です。


主人公すずの声はのん。すべてを包むようなふわっとしたやさしい声も、

平和への祈りのようで、作品世界にとてもあっています。

南フランスの崖で銀の森を想う2019年07月23日 14:59


レボー photo by Keiko

30年前、『ユリディケ』の印税をはたいて、ヨーロッパを五週間旅しました。
こちらは、イギリスにいた友人を誘って南フランスを訪れたときのもの。
レ・ボーという断崖の村で、崖の端からは、眼下にオリーブの木立が見えました。
崖に座って宙に足をぶらぶらさせて、クロワッサンを食べているところです。
(クリック拡大すると、手に持っているクロワッサンがわかるでしょうか。
古い写真をスキャンしたので、わかりにくいかな…)

馬鹿ほど高いところが好き、といいますが、
落ちたらどうしよう、なんてことは、考えなかったんですね。
壮大な光景を眺めながら風に吹かれて、とても気持ちよかったです。

サラファーンの第Ⅰ部を書いたあとの旅だったので、ちょうど、ルシタナとリーヴが
銀の森を見晴らす崖の上で、並んで壮大な光景を見つめたのは、
こんな感じだったのかなと思ったものでした。

このレ・ボー。今でこそ日本でもよく知られていますが、当時はまったくで、
南仏への電車で近くの席にいた若者に、どこかおすすめありますか?と聞いて
教えてもらったのです。
デニムで有名なニムからガタガタとバスに揺られ、山道をぐんぐん上がったところで、
古城をいただく、名前の通り、本当に美しい村でした。

『星の羅針盤』単行本の表紙とキャラクター2019年05月20日 23:10


『星の羅針盤』単行本 イラスト牧野鈴子 デザイン吉永和哉+wonder workz。

『星の羅針盤』の見本を見たときには本当に驚きました。
牧野鈴子先生のリーヴが、わたしが思い浮かべていたリーヴとあまりにも似ていたからです。

キャラクターによって、はっきりと思い浮かべて描く人物と、なんとなくイメージだけが
浮かんでいる人物とがありますが、リーヴは前者でした。
寂しげだけど、実は芯の強さを秘めた、澄んだまっすぐなまなざし。
瞳は榛色。栗色の髪はほつれ毛があって、深緑のドレスがよく似合う。
そばかすまで丁寧に描いてあったのもびっくりでした。
犬が大好きなわたしは、愛犬チェスターも描いてもらって、嬉しかったなぁ♬

去年、先生の個展で原画を拝見したのですが、吸いこまれそうに奥行きがあって
金色も繊細で本当にきれいでした。

サラファーンの星〜本のタイトルが決まるまで2019年02月26日 13:11

〈サラファーンの星〉第Ⅰ部『星の羅針盤』のタイトルは、当初、シリーズタイトルが
〈早春のリーヴェイン〉、第Ⅰ部のタイトルは『最果ての国』でした。

さて。初稿のゲラもできあがり、いざ校正段階となったある日。
編集会議で、シリーズタイトルも第Ⅰ部のタイトルも「茫洋としている」と問題に。

ひっくり返りそうになりました!
もう出版目前だし、わたしの中では、長年そのタイトルできています。

後日譚の『ユリディケ』は冒険ものの色合いが強かったのですが、今回は、
滅びゆく世界を舞台に、家族の物語、市井の人びとの物語を伝えたいと思っていました。
特に、第Ⅰ部は、戦争の足音が迫る直前の、最果ての小さな国を舞台に、
やがて失われゆくささやかな日常や、初恋や友情、家族の愛と葛藤を描きたく、
『最果ての国』はそれにふさわしいタイトルに思えました。
早春のリーヴェインも、戦乱の世界と対極にある、美しい世界の象徴として、
また、第四部終盤のセリフと重ねて決めていたシリーズタイトルでした。

しかしながら、茫洋としている、という指摘は、確かに的を射ています。
さて、どうするか。

書いていると、譲れることと、譲れないことがあるのですが、
タイトルに関して、あらためて考えてみると、絶対に譲れない、というほど
強い思いはないと気がつきました。
そこで、考えに考えた末、シリーズタイトルとして

遙かな時の物語
最果ての国(第Ⅰ部のタイトルをこちらにまわす)

また、第Ⅰ部のタイトルとして、

星に祈りし者
薄葉月に生まれし者
星降月の旅人
サンザシ館の人びと・・・などの案を提出。

すると、編集の小林さんからこんな返答が。

「もうちょっとファンタジーらしいインパクトというか、フックのあるものを」

むむむ。
考えすぎると、人間、頭がぼーっとしてきます。
シリーズタイトルとして、適当にえいっとばかりに出したのが、
サラファーンの星でした。

第Ⅰ部のタイトルは、本文中の、フィーンの王のセリフ
「サラファーンの星を羅針盤にして」から『星の羅針盤』をピックアップ。
海外のファンタジーで『黄金の羅針盤』があるのが気になったのですが、
ファンタジーの好きな友人や、その友人たちに、いくつか候補を挙げて
どれがいいか聞いたところ、断トツの一番人気が『星の羅針盤』。

小林さんと出版社のOKもでて、ほっとしました。
あのとき協力してくださったみなさん、ありがとうございました!

第二部から第四部のタイトルも、『星水晶の歌』以外、すべて変わりましたが
候補であったタイトルは、いずれこの世界を舞台とした短編に、と思っています。