コオロギの歌2019年08月21日 21:22


ウィンチェスターby fumiko

ゆうべ仕事をしていたら、窓の外からコオロギの歌が聞こえてきました。
猛暑が続いていて、秋はまだまだ来ないと思っていたので、うれしい驚きでした。
そういえば、朝方、いつもよりは少し涼しいなと感じたのでしたっけ。
虫たちは、季節が変わりゆくことをちゃんと感じるのですね。
今朝早くには、コオロギの独唱に鈴虫のコーラスが加わっていました。

野鳥の歌も、虫の歌も、とても好きです。
物語にも何度も書いてしまいます。
虫の歌が登場するのは、四部作では『石と星の夜』が最初です(だと思う)。
プロローグ。羊飼いの少年が、夜明けを待っているシーン。相棒の牧羊犬が
虫たちの合唱を聴きながら、まわりの様子に聞き耳を立てているところ。
また、ジョサとリーヴが夜の庭を歩くシーンでは、コオロギに歌ってもらいました。

欧米人は虫の声を雑音と感じるといいますが、
イギリスロマン派の詩人、ジョン・キーツは、虫の歌を詩によんでいます。
キーツは、日本人の心に近い感覚を持っていたのかもしれません。

大地の詩はやむことがない(The poetry of earth is never dead)で
始まる詩には、キリギリスとコオロギが出てきます。
タイトルも、「キリギリスとコオロギ」!(On the Grasshopper and the Criket )
「秋に寄せて」(To Autumn)にも、コオロギが登場します。

丘で鳴く子羊、赤い胸のコマドリ、大空で歌うツバメとともに、
垣根で歌うコオロギや小さな羽虫にも、詩人は温かなまなざしをそそいでいて
とても好きな詩です。
写真は、キーツがこの詩を書いたというウィンチェスターの街角。
去年の秋、友だちと訪れたときの一枚です。

銀色狼〜輝くたてがみを持つ森の守護者2019年07月15日 17:41


銀色狼スケッチ by fumiko

薄い透けるような葉のあいだから、星明かりがこぼれる神秘的な森。
そんな夜の中を、銀色の狼が、ひとりの娘とともに歩いている姿が浮かんだのは
ずいぶん前のことです。
もともとは、まったく別の短編だったのですが、いつのまにか、わたしの中で、
ルシタナが、大きな狼をともなって、銀の森を歩いている姿と重なっていました。
そして、その姿も、はっきり見えるようになりました。

銀色狼……。そんな言葉が浮かびました。
けれども、どんないわれの狼かは、最初はよくわかりませんでした。
フィーンの旧世界が滅びるとき、フィーンと一緒にこの世界に渡ってきたのだと
ぼんやり感じましたが、なんといっても、強烈に伝わってきたのは、その姿。
フィーンと同じように、淡い光りを帯びたように輝いて、長い鬣が、月光のように
きらめきながら、風になびいています。

それから、一頭の銀色狼が、満月がのぼる雪の大地を、一心に駆ける姿が浮かびました。
また、眼下に森を見晴らす崖の上で、遠吠えをしている姿と、その声が聞こえました。
金色の瞳をのぞくと、そこには、銀河が渦を巻いて息づいていました。
サラファーンの星の、大切なエレメントだと感じました。

物語の中で、銀色狼は、フィーンの旧世界と、この世界の架け橋のような存在です。
前世で、フィーンに縁のある登場人物には、その遠吠えが聞こえたり、夢で姿を見たり
また、実際に、銀の森を訪れたときには、直接出逢ったりします。

公式サイトに「自然と暮らし」コーナーを作るにあたって、「生き物」のアイコンは
絶対に銀色狼にしようと決めていました。
デザイナーの畠山さんが、わたしのこのおおざっぱなスケッチを、いつものように
素敵なCGにしてくれました。
CGは額の白い星のないバージョンです。星があるのは、銀の森の一頭だけなのです。

犬好きで、犬の祖先だからか、狼にはとても心惹かれます。
旭山動物園を訪れたときも、森林狼に会えるのが一番楽しみでした。
リーヴが、銀色狼のふさふさしたたてがみのある大きな首を抱きしめるシーンは
描きながら、そのぬくもりや感触が伝わってくるようでした。

(『ユリディケ』を書いたときには、銀色狼の存在は知らなかったのですが、改稿の連載に
あたっては、絶対に外せないでしょう!と思って、冒頭から入れています。)

『石と星の夜』文庫版の表紙とキャラクター2019年05月23日 17:14


『石と星の夜』イラスト鈴木康士 デザイン吉永和哉+WONDER WORKZ。 

文庫版のジャケットは鈴木康士先生。このイラストを見たときもびっくりしました。

ルシタナのイメージが、わたしが思い描いていた以上にルシタナに近かったからです。


ルシタナは父に武術を習い、母の勇気と芯の強さを受け継ぎ、愛情を一心に受けて

銀の森でのびのび育ちましたが、心の奥には、

人とフィーンのあいだに生まれた、たったひとりの存在としての孤独を秘めています。

ジャケットのルシタナのまなざしには、そんな強さと悲しみとともに

どこまでも信念を貫く意志を感じました。

 

ところで、こちらは前回載せた『星の羅針盤』の続きです。

あの単行本の『星の羅針盤』は、長いブランクを経て本を出す新人同然の著者の本でした。

昨今の出版事情はとても厳しく、出版社も当然慎重になります。

当時は続きも完成しておらず、『星の羅針盤』一冊での契約で、

シリーズタイトル〈サラファーンの星〉は入れたものの、

シリーズとはっきり銘打つわけにはいかなかったようです。

 

一冊読みきりと思って買ってしまい、そんなー!と思われた方も多かったと聞きました。

本当にごめんなさい。(シリーズでなければ契約しないと言えればよかったですが、

おそらく、そんなことを言ったら、この話はなかったことに、となっていたかな…。)

 

単行本は売れず、続きの出版は立ち消えの危機に。

そんなとき、一緒に完成を目指してきた担当編集者小林さんの尽力で、

文庫本でシリーズ化されることになったのです。

いざとなったら自費出版と覚悟していたのですが、ほっとしました。

単行本と文庫本ではイラストレーターが変わるとのことで、お任せしました。

 

キャラクター相関図でイラストを描くにあたり、リーヴとルシタナは、思いきり、

牧野先生と鈴木先生のイラストを参考にさせていただきました!

もちろん力が及ぶはずもなく、わたしの頭の中のイメージに近づけるのに苦労しました。

そしてやっぱり、おふたりの絵の方が断然本人に近いなあと、今も思っています。

(最初、Webサイト用に相関図を描いたときは、リーヴとルシタナは、

ジャケットをコピーして切り抜いて、貼り付けました。その図、おいおい載せますね。)