『伝説とカフェラテ』 ― 2025年02月09日 15:52
カバーイラストMIKEMORI&カバーデザイン藤田知子
最強の寒波が来ています。昨日は名古屋も雪がつもりました。
岐阜にいたころ、何度も大雪に見舞われたのを思い出します。
前日、新幹線が止まって、仕方なく京都で一泊した家族を迎えに行くため、
まず勝手口からガレージまでの道を作り、ガレージにたどりついたあと
車の周りの雪をどけ、その後、市道に出るまでの路地の雪かきをして、
ようやく車が出せたこともありました。
今回の大雪は全国的に被害が出ていて、雪おろしや車の事故で亡くなる方もいて、
切なくなります。これ以上被害が出ないよう祈るばかりです。
さて。久しぶりに本のお話。
抗がん剤治療を受けて、静養をしていた最初の頃は、本を読むエネルギーも
なかったのですが、だんだん読めるようになってきました。
『伝説とカフェラテ』は、入院前、編集の小林さんにいただいた本のひとつです。
タイトルからして美味しそうで、ジャケットも美味しそう。静養にはぴったりの、
身も心も温まりそうな心地よいファンタジーでした。
実は私は紅茶派で、コーヒーは飲まないのですが(本格的な濃いコーヒーは
胃が痛くなることあり)、カフェラテは大好きです。
抗がん剤の副作用の味覚障害で、水が不味くて飲めない時には、ミルクか豆乳、
カフェラテかソイラテを飲んでいました。
(インスタントのカフェインレスコーヒーにミルクをたっぷりいれるから、
ラテというより、オレなのかもしれませんが。)
『伝説とカフェラテ』は、心地よいと同時に、エキセントリックなお話でもあります。
殺しの仕事に嫌気が差した傭兵がヒロインなのですが、なんと女性のオーク。
オークって、『指輪物語』では悪役で、たぶん、ほとんどのファンタジーでそうなのでは
ないでしょうか。しかも、女性。相当にめずらしいです。
サキュバスとかストーンフェイとかラットキンとか、よく知らない種族が出てきて
(私はファンタジーを書いているけれど、そのあたり詳しくなくて。エルフやドワーフ
あたりまでならわかるのですが。)
最初は読むのにちょっとだけ苦労したけれど、あまりに飲み物やお菓子が美味しそうで、
そんなことは気にせず読み進みました。
で、ヒロイン。昔ある仕事をしていて、ふと鼻にした(?)コーヒーの香りに惹かれて
お店に入り、癒やされたことが忘れられず、自分でお店を開こうと足を洗います。
オークで傭兵というのは、物語の社会では、底辺の人。
彼女は、自分が世間からどんな目で見られているか、十分に知っています。
そして、同じように、世間から見下されている者たちを雇って、お店を開きます。
彼女の国にはまだコーヒーがないという設定なので、本当に大胆!
のちにそのヒロインと恋に落ちる女性もとっても魅力的ですが
(はい。LGBTQ+の要素も入っている物語です)
私のお気に入りは、粉だらけで奮闘するパティシエのシンブル。
ラットキン(小鼠人)だそうで、小さなねずみ族というのかな、
ジャケットにある、エプロン姿のねずみちゃんです。
とても無口ですが、肝心なことはささやくように話すキュートな存在。
狭くて暑い厨房で、一生懸命お菓子を焼いて、汗だくになって、換気扇を作って
もらったら大喜び。小さなオーブンをフル回転させ、休みなしに働いているから、
大きなオーブンがほいしなって夢見ています。
どんなときでもあきらめず、まっすぐに物事に向き合うシンブル。
ほんとにけなげで、その上、よだれの出そうな美味しそうなお菓子を焼くから、
好きにならずにはいられません。
『伝説とカフェラテ』というのは、ヒロインが始めたお店の名前。
ジャケットには看板が描かれていますね。
シンブルが抱えているのは、真夜中の三日月(ミッドナイトクレセント)。
クロワッサンにチョコがたっぷり入ったようなイメージ。
その上にシナモンロールが描いてあります。
本を読んでいて、シナモンロールが食べたくなって、味覚障害なのも忘れ
思わず買っちゃいました。
そんなふうに、この物語の魅力は、ほんとに美味しそうなお菓子と飲み物なんですが、
隠れた魅力というか、面白さは、「誰もが見かけと違う」ということ。
こわもてのヒロインは心優しい女性だし、美しいエルフの男性は、悪魔的な策略家。
男を誘惑すると思われていたサキュバスは、共感能力が高くて繊細。
恐ろしげな巨大な猫は実は頼もしい守護神だし、街を牛耳るボスたちも、
見かけとは違います。
偏見がいかに馬鹿げたものか、教えてくれる本でもあります。
作者のトラヴィス・バルドリーは、ゲームの開発者を経て、オーディオブックの
ナレーターをしていた人で(作家業とともに今もしているんじゃないかな)、
当然と言えば当然かも知れませんが、この『伝説とカフェラテ』のAudibleは
自分でナレーターを務めています。
思わず買って、iPadで聴きました。
とっても上手! 作者ならではで、どのキャラがどんなイメージか、
ありありと浮かんでくるようなナレーション。完璧に全キャラを使い分けています。
シンブルのささやくような声も、ああ、こんなイメージで描写していたのね、と
わかって嬉しかったです。
英語が好きな方にはおすすめです。
マリア〜諜報員ステランの愛妻 ― 2019年12月02日 17:28
王室情報部〈イリュリア〉の諜報員ステランには、愛妻マリアがいます。
黒髪に黒い瞳。サラファーンの星の登場人物の中でも、もっともやさしい
キャラクターのひとり。
国王に忠誠を誓った者として、危険をともなう任務に就いて、
つねに死と隣り合わせのステランを、献身的に支えています。
ふたりはお互いに一目ぼれ。
波打つ黒髪と夢見るような瞳で、ステランの心を一瞬にしてとらえたマリアは
おっとりした見かけによらず、芯は強く、意外に頑固な一面も。
そしてなにより、食いしん坊。
ステランの同僚パーセローの妹ニッキもやせの大食いで、とっても気が合います。
マリアは生まれつき左足に障害があり、ステランと出逢ったときには
すでに両親もなく、家柄も、ステランのように貴族ではありませんでした。
そのため、ステランの父親から結婚を反対されます。
ステランは爵位よりも彼女を選び、父親に勘当されましたが、彼にとっては
生涯でただひとりの女性。後悔などまったくありません。
とはいえ、ステランは王室の諜報員。
任務は妻にもいえません。それはそれで孤独ですが、そういう諜報員の妻も
同じくらい孤独だと思います。
そんなステランを誰よりも理解し(任務の内容は知らないとしても、
ステランという人間の根本の部分を、頭ではなくハートで理解して)
心から愛して、戻らないかもしれない夫を、いつも笑顔で送り出します。
マリアの強さとやさしさは、親を早くに失い、また、障害があることで、
普通の人よりはずっと苦労が多かったことから来ているでしょうし、
また、生まれついての楽天家、という面もあるでしょう。
「人の心は海より広いのよ」というマリアの台詞があるのですが、
彼女こそ、本当に広い心の持ち主だと思います。
(わたしが男だったら、こんな女性と結婚したい!)
左足が悪くて歩くときに引きずる、という設定は、最初はありませんでした。
でも、わたし自身の人生において、妹の子どもたちに障害があるとわかったあと
さまざまな経験をし、さまざまなことを考え、マリアの設定を変えました。
どんな困難にも負けない女性を、登場人物の中に入れたかったのです。
(もうひとり、シャンベルという少年も、障害を抱えるキャラクターとして
登場しますが、同じ理由です。)
そんな彼女を描く際、参考にしたのは、ボッティチェリのヴィーナスです。
ウフィツィ美術館で見た、ヴィーナスの誕生の、ヴィーナスです。
そのとき買った絵はがきを見ながら描きました。
まあ、全然違うのですが、雰囲気が出ればなぁと。その絵葉書が、こちら。
髪と目の色や、視線は違いますが、なんとなく、参考にした、という感じはわかって
いただけるでしょうか。
(ボッティチェリのこの絵、ものすごく好きなのです。ウフィツィで、長い長いあいだ
ぼーっとこの前にたたずんでいた時間は、まさに至福のひとときでした♡)
冒頭に載せたわたしのイラストは、いつものように水彩色鉛筆で描きました。
下の方に線があるのは、折りたたんでしまってから、スキャンしたから(間抜け…)。
そしていつものように、このスケッチを、チャーミングなデザイナー畠山さんが
CGにしたものを、公式サイトのキャラクターページにアップしています。
キャラクターはひとりずつ、説明や台詞がポップアップするようになっていますが
マリアの台詞は、先ほどの「人の心は〜」と迷った末、夫を案じる台詞にしました。
従軍看護師になろうというニッキを引き止めるために、戦場では美味しいもの食べられ
ないわよ、という台詞でもよかったかもしれません。
ステランは戻ってはすぐに遠くへ出かけるので、描いていて切なくなることも
ありましたが、ふたりのシーンは、いつも互いを想い合っているので、心が温まる
ことが多かったです。
ふたりが最後にどうなるかは、かなりあとになるまで見えなくて、ドキドキしました。
戦時下の恋人たち バドとシャスタ ― 2019年04月22日 21:09
バドは、第三部『盗賊と星の雫』から登場する少年です。通信士官になるため
通信アカデミーに入り、そこで、主人公のひとりハーシュと無二の親友に。
酪農家の次男坊で、通信機器の扱いはセンス抜群。
(本人いわく、豚と気持ちを通わせるのと同じとのこと。)
根っからの楽天家で、家庭が複雑で翳りのあるハーシュと、不思議と気が合います。
シャスタは、第四部『星水晶の歌』から登場する少女。
看護師として従軍するため、王立病院で看護を学びます。
裕福な貿易商の娘で、燃えるような赤銅色の髪をした、はっとするような美人。
都会的で、恋にも遊びにも積極的。
こちらも、主人公のひとりリーヴと友だちになるのですが、
「やっぱり恋はお互いに、ぱっと惹かれあうものがないとね。この前の彼氏なんて
キスの前に決まって鼻の脇をかくのよ。そんなのって嫌じゃない?」なんていって、
恋に奥手なリーヴをどぎまぎさせます。
「白樺亭のサラ〜暗殺事件の証人」のところでも書いたように、
放っておくと、自然と物語を導いてくれるキャラクターがいます。
バドとシャスタもそうでした。
映画を見ているように生き生きと動いて、話をどんどん引っぱっていってくれます。
三巻でバドが最初に登場したときには、彼が、あれほどハーシュと仲良くなることや
最終巻で、そのバドの恋人となる女性が現れることなど、予想もできませんでした。
シャスタに関しても、どんどんリーヴと仲良くなってくれて、
辛いことがたくさん起こるリーヴを、いつも慰めてくれます。
(最初にシャスタが現れたときは、お金持ちだし都会っ子だし、
もっと嫌な女の子かなと思っていました。)
戦時下のリーヴェインで、ふたりは、出征までの短い日々を惜しむように
十代の若い恋を実らせようとします。どうなるのかドキドキしながら書いていました。
キャラクター相関図には、バドとシャスタも入れたかったけれど、
大勢になりすぎて、ややこしいかな、と、泣く泣くカット。(入れたかったなぁ。)
豚を卸しに農場から馬車で街にやってくる、威勢のいいバドの姉さんも、やっぱり
好き勝手に飛び回って、物語を導いてくれる、頼もしい存在でした♬
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