『星水晶の歌』裏話Part22020年03月08日 13:29



『星水晶の歌』下巻書影

第4部は上下巻になったので、ジャケットは二種類。
下巻は「野外劇場の遺跡で歌っているリーヴにしますね」と小林さんに聞いていました。
「ジョサとハーシュも小さく載せます」とのことでした。

できあがってきたのは、黄色とオレンジを中心とした鮮やかなジャケット。
鈴木先生のイラストは、いつも芸が細かいなと思うのですが、
最終巻だからか、下巻のイラストはことさらにいろんな要素がぎゅっと詰まっています。

第3部のジョーの絵に、さりげなく竪琴が描かれていたように、
今回は、ジョサの背景にフレシートの鍵盤が描かれているし、
ハーシュの背景には2隻の帆船。
ルカや預言者、ランドリアやジョーと思われる人影のほか、
帯に隠れる部分には、フィーナヴィルとローレアの花、
それに、満開のサンザシと、サンザシ館……。
(クリック拡大していただくと、わかるかな。)
サンザシ館は、ある意味、物語のキャラクターのひとつといってもいい存在ですから
とてもうれしかったです。 

最終巻は、1部で描いたサンザシ館を中心にした日常の世界と
2部で描いた諜報の世界、3部で描いた過去の伝説の世界がすべて合わさり
世界がいよいよ終末に向かって進むので、話のスピードも加速していきます。

エンディングは、2000年後を描いた『ユリディケ』に伝説として出てくるので
最初から、そこに向かって進んでいたわけで、
(伝説で伏せてある部分は、今回始めて描くことになるのですが)
伝説の中で、あのとき死んでしまいました、となっているキャラに関しては
死んでしまう運命にあります。

第4部、特に後半を書く作業は、そこのところが、一番きつかったです。
というのも、長いあいだ付き合ってきた登場人物は、それぞれ、懸命に
生きてきているし、世界を崩壊から救うために奔走している人物もいます。
話が変わったらいいのに、と何度も思いました。
また、伝説の部分とは関係がないものの、
物語を書き始めた時点から、そう定まっていた人物がいて、その人の最期も
書くのが辛かったです。
そんなこともあり、最後どうなるのかわかっていない人たちや、
死んでしまうと思っていたものの、変更可能な人たちには、
できる限り踏みとどまってもらいました。
そのあたり、詳しくは、またいつか、あらためて記事にしたいと思います。

物語は、書き始める頃には大枠は決まっているのですが(というか
大枠が決まってから書き始める)
決まっていない部分もたくさんあります。
今回も、そこに行かないと見えてこない景色がたくさんありました。

リーヴの大学病院の看護研修のエピソードは、事前には大まかなことしか
わからなかったので、親友になる赤毛のシャスタは、書いていて新鮮でした。
ハーシュの親友バドは、前回『盗賊と星の雫』からの登場で、
ある日、バドとハーシュが、リーヴとシャスタのいる
川沿いの洒落たカフェに入ってくるシーンが浮かびました。
そして、次の瞬間、バドとシャスタが恋に落ちるのが見えました。
なんだかちぐはぐなのに、ぱっと惹かれ合ったふたり。
だいじょうぶかなぁと少し心配でしたが、
登場人物がそう動きたがっているときには、よほどの事情がない限り、
そのままそっと見守ります。このふたりも、見守ることにしました。

ルシタナの旅の、葡萄園の物語も、そこにたどりついてから
見えてきた景色でした。
たった一章の短いパートですが、葡萄園の〈鷹匠〉はわたしの心の中で
強烈な存在感を放ちました。

リーヴェインの諜報員ハルは、ルシタナの旅路を準備するとき、
貸しのある者に声をかける、
というようなことをロンドロンドに言っていますが、
どんな人が出てくるかな、とずっと思っていました。
〈鷹匠〉が出てきて、ふたりの男の過去のつながりが見えたとき、
なるほどと納得できました。

さて。前回お話したように、この第4部も、たくさんカットしました。
その中から、ふたつのシーンをご紹介しましょう。

注:ここからはエンディングに触れています。(完全ネタバレです。)

☆  ☆  ☆

ひとつは、88章と89章のあいだ。
ここにもうひとつ、ハーシュのシーンを描いた章がありました。
乗っていた戦艦が撃沈され、生存者なし、と伝えられたハーシュが
なぜ生きていたか、詳しいいきさつを書いたものです。

彼は、無人島に流れ着き、やはりその島で座礁して助かった別の船の乗組員
パコに助けられたのでした。
パコは、第2部に出てくる茶葉運搬船の乗組員。強制徴兵され、
可愛がっている白猫スーフィとともに海の戦いへと向かっていました。
ハーシュは、打ち上げられた浜辺で、まず、スーフィに見つけられ
そして、命を救われます。

けれども、初稿を読んだ小林さんが、
「わたし、最後、リーヴといっしょに、驚きたいんですよね」と言いました。
「これだと、読者は、リーヴよりも先に、ハーシュが生きていることを
知ってしまいますよね」と。
パコと白猫の話は、2部を書いたときから出すつもりだったし、
パコとハーシュのさりげない友情も出したかったのですが、
編集者は、読者の代表。
なるほど、と思って、カットしました。

もうひとつは、エピローグです。
最後の章から数年後の物語を描いていて、
たぶん、ある意味で、もっとハッピーなエンディング。
人の世界から逃げてきた者たちが、どんな世界を築いているか、
そして、いまだ吹雪に包まれた人の世界を見つめながら、
どんな思いでいるか、を描いています。
リーヴは結婚して、子どももいて
(死んでしまったキャラクターが、新たな生命として登場)
他のカップルも、同様で・・・。

けれど、何度書き直しても、気にいるように書けませんでした。
そのうちに、これは蛇足かもしれないと気がつきました。
いまのエンディングよりも、はっきりと希望や明るさを出したかったのですが
それは、読み手ひとりひとりに委ねるほうがいいのかな、と。
そして、この部分は、短編で、いつか書けたらと思っています。

『星水晶の歌』裏話Part12020年03月01日 17:23


『星水晶の歌』上巻書影

物語が完結する第4部は、すべての伏線を回収し、物語をエンディングに導く必要があり、
上下二巻になりました。
編集の小林さんから、上巻にはウィルナーの軍服姿を入れたいので、どんな軍服か
簡単に送ってほしいとメールが来て、いそいでスケッチしたのが、こちら↓です。

ウィルナーの軍服ラフスケッチ

なんで紫色のペンで描いたのか? 緑の軍服なのにって、突っ込まれそうですが
特に理由はなくて、紫色のボールペンを買ったすぐあとだったのかな、なんとなく
それで描き始めてしまったのです。
寒い冬に耐えられるよう、生地は暖かく、騎兵隊なので、後ろから見ると、
裾が割れているかな、というイメージです。
ひとつ失敗したのは、服や靴に気を取られ、騎兵隊のヘアスタイルは、長めだと、
注意書きを入れるのを忘れてしまったこと。
ジャケットのイラストは、兵士らしく短髪になっていますね。
みなさんは、どんなイメージをお持ちでしょうか。

さて。上下巻でとても長くなってしまった第4部。
今回も、最大の難題は、どこをカットするかでした。
入稿前の最終稿では、まず情景描写をカット。
5行のところを2行にしたり、全てカットしたり。
膨大な原稿を読み直して、1シーン、1シーン、チェックしていきます。

また、なくても話の流れがわかるシーンは当然カット。
たとえば、上巻で、ニッキがジョーを救うために、軍の要塞の馬を借りるシーンは、
許可証がなければ借りられない規則のもと、杓子定規の将校を説得するため、
ニッキが兄から教わった諜報員の奥の手で切り抜ける・・・はずでしたが、
あっさり借りられる設定に変更。(これで2ページ短くなりました。)

そんなこんなで、かなり短くして最終稿を送ったのですが、上巻だけで550ページに。
編集の小林さんから、これだと価格が1300〜1400円になってしまうとメールが。
わわ。第一巻からして、ただでさえ、周りから高いと言われていたので、
それだけは避けたい。

小林さんからは、4部作の最後なので、読者にとって説明不足で不親切ではいけないし
ストーリーだけを追って、ふくらみのない物語になってもいけないから難しいけれど、との
フォロー。
せめて1200円におさえたいので、512ページになるようにお願いします、とのこと!
扉、人物紹介、地図、奥付を入れた数字なので、本文は502ページ以内です。

なにやら、紙の単位の関係で、それを越えると、100円上がってしまうとのことで、
ゲラが上がってきたあと、上下巻とも、数十ページのカット作業に入り
(これまでで一番きつかった!)
なんとか上下とも、奥付も入れてぎりぎりの512ページにおさめました。

やった〜、とほっとしたのもつかの間。なんと、最終的に、1500円になって
しまいました(T_T)
発行部数が少ないから、その値段でないと赤字になってしまうのだそうです。

ガ〜ン!!!

上下二冊で3000円プラス税金。
読者の方たちに申し訳なくて申し訳なくて、
思わず小林さんに、印税要らないからもっと安くしてください、とお願いしてしまいました。
でも、例外は作れないとのことで(そりゃそうですよね)、泣く泣くあきらめました。
編集者と作家が努力しても、どうしようもないことってあるのですね……。
ものすごくショックを受けて、一週間ほど、寝込みそうになりました。

本が出たあと、やはり、高すぎるという批判をたくさんいただきました。
3巻までが売れていたら、発行部数も増えて、もっと安くできたので、わたしの
力不足です……。
本当にごめんなさい。

ユリディケをネットで自由に読めるようにしたのは、4部作を読んでくださった方への
感謝の気持と同時に、本が高くなってしまったことへの、お詫びの気持ちもありました。

昨今の出版事情は本当に厳しくなっています。海外の翻訳もののシリーズなどは、
続きが出ないのもあり、残念に思うことがあります。
もっと本を読む人が増えますようにと心から願っています。

4部の内容に関しての裏話は、また今度☆

コロナウイルスで大変な状況ですが、みなさま、どうぞ気をつけてお過ごしください。
一日も早く、普通の生活に戻りますように。

『盗賊と星の雫』〜黒のジョーとジョサの秘密2020年02月25日 11:50


『盗賊と星の雫』書影

第3部『盗賊と星の雫』には、
ギルデアの地下牢に囚われた盗賊ジョーが、老人ガリウスから
〈サラファーンの星〉にまつわる伝説を聞き、
世界を救う鍵となるダイヤモンドのブレスレットを彼に託され、
地下牢を脱し、危険な旅に出る……
という話が出てきますが、4部作のアウトラインを考えた当初は、
ジョーのシーンはそれほど多くなるはずではありませんでした。

もちろん、サラファーンの星のかけらのブレスレット〈星の雫〉を
ジョーが運ぶ、というプロットは、最初からありましたし、
それは物語の核を成す重要な要素ですが、ジョーのシーンは要所要所に
出てくるだけだったのです。

ところが、第1部が世に出たとき、
「短編を読むとしたら、どの登場人物の話がいいですか?」
というアンケートを、友人や知人に片っ端からしたところ
ジョーはほかをぐんと引き離し、ダントツの1位でした。
第1部では、ジョーは本当に少ししか出てきません。
なので、とても意外でした。

短編を書くのはいつになるかわからないし、それならいっそ、
この長編の中で、ジョーの出番を増やそうということになりました。
その時点ではすでに第2部はほぼ仕上がっていたので、
第3部から、ということで。
タイトルも、当初は『アイラの歌』でしたが、ジョーの出番が増えた
ことで、『盗賊と星の雫』に変更しました。

ところで、ジョーがガリウスから聞く、過去の伝説の物語は、
初稿では、いまの倍の長さがありました。
編集の小林さんは、『石と星の夜』に続いて、大幅にカットするよう
アドバイスしてきました。
伝説や過去の話があまり多いと、たしかに、間延びしてしまいます。
それはあとで別の物語にすればいいのでは?ということになり、
今回も、思い切ってたくさんカットしました。

『盗賊と星の雫』では、ジョーの物語と並行して、音楽家の道を
ひた走るジョサの物語が語られ、彼の秘密が明かされていきます。
これまで少しずつヒントを入れてきたので、読んでいて気がついた人も
いるかもしれません。
ジョサが体験する悲劇とともなって、
明るく脳天気な少年の裏の顔が見えてくるという展開です。
なにごとも、なにものも、見かけとは違う。
しばしばそう感じることがありますが
ジョサという少年には、そのことが、よくあてはまると思います。

第3部であたらに登場する、天上の声を持つ少女チェチェは、
物語を書き始めたときには、影も形もありませんでした。
彼女が初めて姿を見せたのは、第2部を書いているときで、
星降る野外歌劇場で、ジョサのフレシートに合わせて幼い少女がソロで
歌うシーンが浮かびました。
彼女が歌う『麗しのローレア』はメロディもあるので、歌声も聞こえるようでした。

ちょっとおしゃまで、ジョサのことを大好きな少女。
青灰色の澄んだ瞳。両親は楽団の音楽家。
生まれたときからみんなに愛されて育ったんだな、とわかる女の子。
そんな少女はきっと愛らしい名前だろうと思って、チェチェと名づけました。

この第3部で、人生の大きな転換期を迎えるステランとマリアのことや、
ジョーとガリウスに関しても、まだいろいろ書きたいことがあるのですが、
だんだん目が限界になってきました。
(ここ数年、パソコンを見ていると目がとてもつらくなってきます。やれやれ。)
また別の機会に…。

『石と星の夜』~スパイたちの悲しみ2020年02月19日 17:14


『石と星の夜』イラスト鈴木康士 デザイン吉永和哉+WONDER WORKZ。 

今日は、『石と星の夜』の裏話を。

四部作はそれぞれ個性をもたせたかったのですが、
この第二巻は、中でも、少し変わり種かもしれません。

夏の終りから秋にかけて、ほんの二か月弱のあいだの物語で、
情報機関〈イリュリア〉内部の裏切り者を追う諜報員たちの話と、
サンザシ館の人々の話が交互に語られる構成になっています。

ロンドロンドが、リーヴェイン王室の諜報員になることで、
サンザシ館も、諜報の世界と間接的につながりを持つことになりますが、
ロンドロンドの表向きの仕事は通信員。
彼が極秘の任務についていることは、誰も気がついていません。

タイトル『石と星の夜』は、世界を滅ぼしかねない兵器が
生まれるきっかけとなった、星降る冬の夜をさしています。
ロンドロンドの同僚が、彼にそのことを話すセリフ

「すべてはある冬の夜ーー〈石と星の夜〉に始まった」

からきています。
(本の帯も、ここからほとんどそのままとってもらえて嬉しかったです。)

20代の後半、スパイものの小説をけっこう読んだ時期があって
中でも好きだったのが、ジョン・ル・カレの作品でした。
「寒い国から帰ってきたスパイ」を読んで、
その静謐で、冷徹で、悲哀に満ちたスパイたちの世界に、衝撃を受けました。
国や理念、組織のために、それぞれ、自分を犠牲にせざるをえない宿命や
それでも、愛するものを守ろうとする思い。その葛藤……。
読み終えて、何日も、心から離れませんでした。

ル・カレは、MI6(英国秘密情報部)の一員で、その経験をもとにスパイ小説を
たくさん書いています。
007もMI6という設定ですよね!(こちらの作者、イアン・フレミングは
英国海軍情報部に所属していました。)

何人かのスパイものを読んだ中で、ル・カレがダントツに好きでした。
どれもスパイの悲哀を描いて、深い余韻を残す物語。
(ル・カレの作品をすべて読んでいるわけではないし、
あまり偉そうなことは言えませんが。)

映画化されたル・カレ作品も多いです。
『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』は、主演のひとりが
BBCの『シャーロック』でシャーロックを演じたB・カンバーバッチでした。
邦題は『裏切りのサーカス』。
『ロシア・ハウス』と『ナイロビの蜂』も心に残っています。

『石と星の夜』は、ル・カレにオマージュを捧げる、という思いで、
せいいっぱいの敬意を込めて書きました。

物語に登場する情報機関の中で、中心となるのは、
アトーリス王室情報部〈イリュリア〉。
王に忠誠を誓った精鋭たちで構成され、700年の歴史を持つ情報機関です。

ヴェルゼン長官は、思い切り渋くてかっこいいボスを想像しながら描きました。
暗殺事件の特捜班を率いるチーフも、長身で美男のリーダー。
愛する妻子を失った暗い過去を持つ、悲しい瞳が印象的な男です。
そのほか、ステラン、パーセロー、ミコルトが中心メンバーで、
それぞれのイメージが浮かんだあとは、この〈イリュリア)の男たちは、
作者孝行者というか、手がかからないキャラで
どんどん動いて物語を導いてくれました。

ただひとつ困ったのが、ものすごく長くなったこと。
勝手に動き回るものだから、そういう事態も起こります。

編集の小林さんからは、長くなると全体のバランスが悪くなるし、
本の値段も上がってしまうからと、短くするようアドバイスを受けました。
最初、字を小さくして1ページの行数を増やす、という方法を勧められたのですが
(それだけでは、もちろん、不十分なのですけれど、まずはそうしてみたら?と)
一巻でも字が小さいと感じていたのに、あれ以上小さくなったら、
本当に読みづらくなってしまいます。
それだけは避けたいと思いました。

ただ、膨大な量をカットしなければなりません。主に次の2つの方法で乗り切りました。

1:情景描写をカット。
まるまるカットする場合もあれば、行単位、あるいは、単語単位でカットする場合あり。

2:陰謀の伏線など必要な部分を最低限残し、なくてもわかるシーンはすべてカット。
たとえば、パーセローがラシルを探すシーンなどは、大幅にカットしました。
彼、実際は、ある村で若い女性に後ろから棍棒で殴られて気を失ったりなど
もっと苦労していたんです。
同じくパーセローの波止場での聞き込みシーンもカット。
タリス港名物、焼きサバのサンドイッチを、屋台で買って食べるところがあって、
焼きサバ寿司が好きなわたしとしては、入れたかったのでした。

そうして、初稿の三分の一近くをカットして、ようやく2巻が完成したのでした。
膨大な量でしたので、本当に大変でしたが、今は短くしてよかったと思っています。
(実は、4巻ではもっと苦労をしてカットすることになるのですが、当時のわたしが
そのことを知らなかったのは、幸いでした!)

2巻では一つの事件はそれなりの決着を見せつつも、さらなる謎を残すことになり、
悲しい宿命を背負ったスパイたちの物語は、続いていきます。

『星の羅針盤』〜つかのまの平和な日々2020年02月17日 17:34


『星の羅針盤』書影

〈サラファーンの星〉は、第一部から第四部まででひとつの物語ですが、
四部とも、それぞれ違う雰囲気の本になっています。

第一部『星の羅針盤』は、戦火を逃れてきたリーヴの一家が、最果ての国の
伯父の家、サンザシ館で過ごすつかの間の平和なひとときを描いています。

村外れの森に住むフィーンの娘との出会いと交流という、非日常の出来事や、
伯父の過去には秘密があることが暗示され、
のちに戦争が影を落とし、戦乱の時代が来ることを、ほのめかしながらも
全体としては、まだ毎日がきらきらと輝いている世界です。

第二部『石と星の夜』はスパイたちが暗躍する陰謀の物語、
第三部『盗賊と星の雫』は地下牢に囚われた盗賊の目を通して、サラファーンの星
(フィーンのダイヤモンド)にまつわる過去の物語、
第四部『星水晶の歌』は、滅びゆく世界を背景にした戦争や冒険ものという要素が
強いでしょうか。
世界を救おうと奔走する者たちと、それをはばむ力との最後の戦いの物語です。

今日はまず、『星の羅針盤』の舞台裏のお話を。

冒頭の書影は、文庫版のものです。
本の見本ができてくるときには、ジャケットや帯がどんなだろうと、
いつもドキドキします。
『星の羅針盤』は、単行本とは変えますと言われていましたが、
見本が届いたとき、単行本とものすごく違うのでびっくりしました。
ダイヤモンドの剣も、かなり違います。わたし自身のイメージは、単行本の
細身でシンプルなイメージが近いのですが、
文庫版のがきれいだと言ってくれる人もいたり、リーヴのイメージもそれぞれで、
百人いれば百通りだなぁと感じ入ります。

帯のキャッチコピーは、「預言の英雄はどこに」でしたが、
こちらは、あ、ちょっと違うかな、と思いました。
プロローグで、預言者が、さだめられた英雄が誰かよりも、
われわれがいかにあるかが大切だと語ったように、
この四部作は、剣の探索に行く者だけではなく、ひとりひとりが成すべきことをする
群像劇としての物語なので、そのことがわかるコピーを、わたし自身が考えて、
提案してみればよかったのかなと思ったりもします。
ファンタジーは、やはり、英雄物語、というイメージが強いのかもしれません。

この第一部。30年前に草案を書いたときは、黒のジョーとその一味が
男爵の馬車を襲うシーンはありませんでした。
また、ランドリアが暗殺事件にかかわったハンターを追い詰めるシーンも
ありませんでした。
ただ、当時原稿を読んでくれた理論社の岸井さんから、事件が少なすぎるとアドバイス
してくれて、第二部に入れる予定だったそれらのシーンを、前倒ししたのです。
それでもまだ退屈、という意見もあったのですが、
あまり最初から登場人物を多くしたくなかったので、そこは難しいところでした。

『星の羅針盤』には、さり気ないシーンにたくさんの伏線を張り巡らせました。
一度読んだだけではわからないように。けれども、ちゃんと描いておくことで、
「フェア」になるように。
たとえば、ダン伯父さんとジョサ、ハーシュの異母兄弟の秘密は、第二章から入れて、
全般にわたってちりばめました。
注意深く読めば、あれ?もしかして、と感じられるように。
行方不明のトゥーリーの話も、第二章に早々に登場させました。

わたしは、子どもの頃から、気に入った物語を何度も繰り返し読むくせがあります。
二度、三度読んでも、そのたびに新しくなにかを発見できる物語も好きなんです。
もちろん、この四部作を二度読まれる方はめったにいないでしょうけれど
(こんな長い物語、一度読むだけでも時間がかかって大変ですよね!)、
もしもぱらぱらと読み返したとき、あ、ここにこんなことが書いてある、などと
楽しんでいただけたらいいなと思っています。

『ユリディケ』出版&デビュー30周年2019年03月31日 21:12

『ユリディケ』は1989年の3月に出版されました。
現在、手もとには、1993年の4刷りしかなくて、日にちはわからないのですが、
そういえば今月だったと、ふと思いだしました。(あと2時間と少しで4月です…)
デビュー30周年でもあり、そんなときに骨折するなんて、いかにもドジなわたしらしい
と、妙に納得してしまいます。

『ユリディケ』の初稿は、最初、高校時代のクラスメイト岸井美恵子さん
(大学でも同じ学部&同じ体育会洋弓部。児童文学の出版社、理論社の編集者です)に
読んでもらいました。
入社後初めての年賀状に、「将来、ふー(わたしのニックネーム)の本を、わたしの編集で
出せたらと思っています。夢は大きく」と書いてくれたのが、本当にうれしかったのです。

素人の書いた荒削りの物語は、出版が決まるまで紆余曲折あり、時間がかかりましたが、
やがてゴーサインが出て、編集者がもうひとりつくことになりました。
友だちでは、お互いやりにくいのではと、岸井さんが心配してくれたのです。
やはり同い年の女性で、全員20代のチームとなりました。

みんな若いだけに(というか、おそらくわたしが物知らずであったために)、
いろいろと真正面からぶつかりました。
大変だったことのひとつは、タイトル。
『ユリディケ』では、なんの話かさっぱりわからない、というふたり。
でも、わたしの頭の中のイメージは、『ユリディケ』しかありません。
互いに一歩も譲らず、ようやく、サブタイトルをつける、ということで落ち着き、
何十もの候補を出し合って、その中から「時をこえた旅人たちの物語」を選びました。

PR用の葉書も作ってくださるなど、つねに新しいアイデアを思いつき、
真摯に取り組んでくださったおふたりには、いまでも感謝の気持ちでいっぱいです。

さて。明日は新元号が発表されますね。
新しい時代が、平和で平らかな世界をもたらしますように。