『星たちの祈り』から、小さな物語を…2019年10月03日 20:55

かつて「小学四年生」という雑誌に、毎月、星たちの祈りというテーマで、
きたのじゅんこさんが絵を描かれていました。
わたしはその絵に、詩や物語を添えていました。とても楽しい仕事でした。
連載が終わると、詩画集として出版されましたが、現在は絶版になっています。
今夜は、その中から、小さな物語をひとつ…。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆

真夜中のことです。
輝く肌をした少年があらわれていいました。
「ぼくといっしょにおいで」

少年がわたしの手をとると、わたしの部屋は消え、
わたしたちは暗黒の空間に浮かんでいました。
どんな夜よりも暗く、なんの音もない世界です。

「ここはどこ?」
わたしがたずねると、少年はこたえました。
「ここは夢が終わり、夢が始まるところ……。ごらん」
少年は、合わせた両手を静かに開きました。

すると、ほのかに光る手のあいだから、
輝く星がいくつもいくつも生まれてきました。
氷の環を持つ惑星や、
まばゆい尾を引く彗星、金と銀の二重星……。
闇の世界は、たちまち、きらめく星であふれました。

少年の手のなかには、最後にひとつ、小さな星が残っていました。
わたしがそっとのぞきこむと、
星は一瞬またたくようにふるえ、みるみる青く輝きました。

なんて美しく、なんてこわれやすそうな星でしょう。
わたしの胸は、その星への愛しさでいっぱいになりました。

少年が静かにささやくのが聞こえました。
「これがきみの住む星ーー地球だよ」

秋のすみれ2019年10月10日 17:13


ローマ郊外のすみれ

かつてローマ郊外でみかけたすみれは、花は咲いていなかったけど、
緑がとても清々しくて、その上で眠りたくなるほどやわらかそうでした(写真)。

すみれは大好きな花のひとつ。濃い青や紫、淡い紫、白など、どれも清楚で、
野の花というのが奥ゆかしくて、とても愛おしくなります。

春になると、道ばたや公園など、あちこちで見かけますが、
実家の庭にも、いつのまに種が飛んできたのか、春が訪れるたびに
小さな淡い紫の花を咲かせるようになりました。
たちつぼすみれかな。ローマで見たのと同じハート形の葉をしています。

いまの季節は、つぼみが開かないまま、ある日突然三つに割れては、
さかんに種を飛ばしています。
(閉鎖花というのだそうです。)
友だちに種を送ろうと思って手折ると、包んだ手の中で、ぱんぱんとはじけました。
かなりの勢い。手を開くと、茶色い小さな種が手のひらに。

よく観察すると、ものすごく遠くに飛ぶのです。
小さな花なのに、びっくりするほどたくましい。
ああ、そうして子孫を増やすんだなぁと思います。

サラファーンの星に登場する銀の森には、
楡と薄葉楓がひとつになった大木のもとこんこんと湧く泉があって、
そのまわりには、ありとあらゆるトーンの青い花が咲き乱れています。
すみれもそのひとつ。
青い花を思い浮かべたとき、大好きなすみれと忘れな草は、外せませんでした!
また、架空の鉱物、菫(すみれ)石は、
青みがかった濃い紫のすみれからイメージしています。

一日も早く普段の生活が戻りますように2019年10月14日 21:26

12日の台風は、岐阜の実家で迎えました。
実家は土地が低く、たびたび浸水の被害に遭っているので、
いろいろと備えをして、ドキドキしながら過ごしました。

今回、我が家は無事でしたが、
各地のあまりの被害の大きさに、言葉を失っています。
こんなにも広範囲で、あちこちで河川が氾濫し、洪水が起こるなんて…。
連休は、コンサートを聴きに信州へ行く予定でしたが、
その大好きな美しい地方も、千曲川の決壊などで、大変なことになっています。

そんななか、昨夜のラグビーW杯のスコットランド戦、
みんな、被災地に思いを馳せて戦っていて、心揺さぶられました。
また、カナダの選手たちが、試合が中止になってがっかりしているでしょうに
釜石の土砂など台風の後片付けを手伝っている姿にも、胸がいっぱいになりました。

犠牲になった方々のご冥福を心からお祈りしています。
そして、被災地に、一日も早く、普段通りの生活が戻りますように。

金木犀とすみれ2019年10月18日 17:45


雨の中の金木犀

金木犀の花が咲き始めました。
窓を開けると、さわやかな香りがただよってきます。
雨降りの一日でしたが、雨に濡れた花や葉も好きです。

レイ・ブラッドベリの作品に「十月はたそがれの国」という短編集がありました。
原題は、The October Country。(なんて素敵な訳でしょう!)
金木犀の香りと、オレンジ色の愛らしい小さな花を見ると、
なぜか毎年、そのタイトル本が浮かびます。
読んだのは学生のころで、内容は忘れてしまったのですけれど。

金木犀は、咲き始めもきれいですが、満開を過ぎて、朝起きると、
緑の芝生の上に、小さな花がたくさん散っているのも、大好きな光景です。
まるで、妖精たちが、ひと晩中パーティをしたあとのよう。
思わずほほえんでしまいます。

こちらは、すみれの種(右上、閉鎖花が三つに分かれて開いた中に、小さな種が並んで
いるのがわかるでしょうか)。左下に見えるのが、まだ新しい閉鎖花です。 

すみれの種

日を追うごとに、台風の被害の大きさがどんどんわかってきて、本当に胸が痛みます。
金木犀やすみれを見ながら、被害に遭った地域でも、金木犀や秋の花が咲いて、
大変な思いをしている人たちの心が、どうか少しでもなごみますようにと祈っています。

『ユリディケ』第2部の連載を終えて2019年10月24日 17:41

『ユリディケ』改稿版、第2部の連載が終わりました。

第Ⅰ部と同じく、サラファーンの星とのつながりを、より感じられるようにと思い

登場人物の性格や設定の微調整、地名や植物、食べ物のディテールなど、

最初にざっと書きなおしたときよりも、かなり手を入れることになりました。


物語そのものや、流れは変わっていません。

やはり、初めて書いたときの新鮮な感覚は、大切にしたいと思いました。

 

キャラクターとして最も手を入れたのは、ヨルセイスです。

『ユリディケ』ではまったくの脇役ですが、サラファーンの星を書く段になって、

謎めいた過去を持ち、深い哀しみを秘めていることがわかってきたので、

そうしたことが、少し感じられるといいなと思って。

 

今回は、彼が、持ち前の優れた戦闘能力を発揮するシーンはありませんが、

武術に秀でていると同時に、繊細さとやさしさを兼ねそなえた存在として

ところどころに顔を出してもらいました。


サラファーンの星の終盤では、ある灰色の騎士との死闘もあり、それは

二千年の歳月を経てなお、彼の心に暗い影を落としているだろうと思いました。

そのことは、ちらっとほのめかすだけに留めましたが、やはり外せない要素でした。

 

ヨルセイスの葦毛(あしげ)の馬は、シルフィエムという名です。

(「夜明けの風」を意味するフィーンの古い言葉、という設定です。)

サラファーンの星では、カタカナ名が多いので、煩雑さを避けるため

単に「葦毛」あるいは「フィーンの葦毛」としたのですが、

今回は登場人物も少ないので、大丈夫かなと判断し、一か所だけその名を入れました。

ようやく出せて、ちょっと嬉しかったです。

 

ユナの時代の地名には、二千年前の地名を引き継いでいるものもあります。

サラファーンの星の二巻と四巻に登場する港街スリン・ホラムも

おそらくそうだろうと考え(旧バージョンには出てきませんが)

デュー・レインとワイス大尉の故郷として、名前だけ登場させました。

彼らの前世に縁の深い街です。

きっと、申し合わせて、同じ街に生まれてくるんじゃないかなと思って。

 

『ユリディケ』を書きあげたあと、前世の物語がたくさん浮かんできた人物の

ひとりが、デュー・レインが最も信頼する部下、ワイスでした。

そうして彼は、前日譚では重要なキャラクターのひとりとなりました。

今回、改めて『ユリディケ』に戻ってみると、本当にちらっとしか出てこないし、

デューとの関係も、なんだか薄い印象でした。

物語は変えたくないので、出番はほとんど増やせませんでしたが、

上官と部下ではなく、もっと対等な間柄にして(軍での階級はデューの方が上ですが)

厚い友情が感じられるように書き換えました。

また、ワイスが戦死した弟について語るシーンは、ナイーブすぎる気がしてカット。

恋人を想っている(と彼の表情からデューが思う)シーンを入れました。

(本当は、その恋物語も入れたかったのですが、そんなことをしていると、

どんどん話が横道に逸れるので、それはあきらめました。)

 

ディテールに関しては、マレンの木を登場させました。

四部作では、真冬のギルデアに、柑橘系の香りのする白い花を咲かせるとして、

たびたび出てきた灌木です。

かつて、デューやワイスと、マレンの大地を渡ったヨルセイスは、今回もまた

彼らとその大地を渡ります。そして、ユナとルドウィンも。

石榴のような赤い実をみのらせる栗麦(くりむぎ)や、その栗麦粉で作るパン、

サラファーンの星を書きながら、目に浮かぶようだった紺碧の南アルディス海も

遠乗りのシーンで、少しだけ、登場させました。

 

11月からは、第3部「光と影を制する者」に入ります。

サラファーンの星四部作は読み終えて悲しくなったという感想もいただきます。

『ユリディケ』にいたる道として、「悲しい伝説」の時代を描いたので、

メインの人物も半分姿を消し、どうしても悲劇的な要素が強くなりました。

それでも、希望の感じられるエンディングにしたつもりです。

(あれで?と突っ込まれそうですが…)


個人的には、ハッピーエンドが好きです。(例外的に、好きな悲劇もありますが。)

『ユリディケ』は、読み終わったとき、幸せな気持ちになっていただきたいと

思っています。

エピローグを入れて残り10章。

最後までおつきあいいただけたら嬉しいです。