あなたを信じる人が世界にたった一人でも2019年05月07日 20:55


デルフィニウム優しい友のような清楚な花 photo by fumiko

最初にユリディケのアイデアが浮かんだとき、わたしは広告代理店に勤めていました。

いつか物語を世に出したいという夢を、そっと胸に抱きながら。

わたしの仕事は、制作局の雑用係。社内外の郵便を配るのも仕事のひとつです。

制作の副社長室にも手紙や書類を届けるうちに、副社長の秘書と言葉を交わすように

なりました。

 

少し年上で、音楽を愛する彼女は、ひかえめだけど、よく笑い、冗談も大好き。

なにごとにもとらわれない自由な人で、

世間の常識よりも、自分の思いを大切にしていました。

副社長は少しばかり気難しく、激高することがあり、社員から怖れられていましたが

(目撃情報によると、しばしば、コーヒーや灰皿が宙を飛んだ)

彼女はそんな副社長に対しても、あまりに理不尽で間違っていると思えば、

とてもおだやかに、でも堂々とそう指摘する人でした。

副社長も、そんな彼女の言葉を、はっと我に返ったように素直に聞いていたようです。

 

彼女はまた、正直で、つねに前向きな人でした。わたしは、そんなところにも惹かれ

いろんな話をするようになっていきました。

そしてある日、心の中で徐々に形をとりつつあるファンタジーのことを話したのです。

もう夢が、心をいっぱいに満たして、あふれんばかりになっていたので……。

 

わたしは、それがどんな物語かを話しました。

それを本にして、わたし自身が物語を追いながら感じているときめきを、喜怒哀楽を、

読む人にも感じてもらいたい、心から楽しんでもらいたいと話しました。

そして、目に見えないもの、愛や希望、やさしさの大切さを感じてもらえたらと

願っていると。

 

熱心に聴いてくれたあと、彼女はいいました。

「素晴らしい夢ね! きっと実現するわよ」

心からそのことを信じて、いってくれているのがわかりました。

 

そんな夢みたいなことを、と笑ったりせずに、

わたし以上にわたしのことを信じてくれる彼女の存在が、どれほど心強かったことか。

そのおかげでわたしは、どうせ書けるはずないよね、などと余計なことを悩んだりせず

まっすぐに創作に向かえたのです。

 

自分の力不足に落ち込むことも、数え切れないほどありましたが、そんな時も、

彼女はいつも応援してくれました。絶対にだいじょうぶ。あなたならできる、と。

本当に、ユリディケ誕生の女神さまです。

 

どんな夢でも、同じ。

誰か、世界でたった一人でも、自分のことを信じてくれたなら、人はきっと頑張れる。

その夢を実現できる。

そしてまた、人生に絶望したときも、誰かたった一人でも、気にかけてくれたなら

人は生きていけるのではないか。そう思っています。

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