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薬草使いの少女ラシル(&パーシー大尉) ― 2022年10月11日 14:50
弟が大好きなんだけど、自分にはないその才能に、嫉妬も感じてしまう
リーの姉ラシル。
リーが、まっすぐで、いつも心のまま、直感に従って大胆に動くのと比べ、
内向的で理性的。行動も控えめ。(少し複雑な内面を抱えていますが、
心の奥はとても清らかです。)
彼女を深く知るのは、ちょっと時間がかかったけれど、
名前はすぐに浮かびました。
ラシル。〈サラファーンの星〉に名前だけ登場する伝説の少女の名。
ルシタナの時代よりもさらに二千年前、干ばつに苦しむ茶の村で、
村人たちを新たな地へと導いたという少女です。
枯れ果てた茶畑で、ただ一本だけ残った若木をたずさえて、
長く厳しい旅の果て、ラシルと村人たちは、
茶の栽培にふさわしい、霧と春の雨に恵まれた土地を見いだし、
村は少女にちなんで、ラシルと呼ばれるようになります。
前々回、薬草使いの少年Part2で話したように、
その遠い時代、リーは愛と平和をうたう詩人でした。
彼は反戦を訴え、時の国王(のちのグルバダ)に処刑されますが、
その翌年、大干ばつが世界を襲い、
ラシルの村の茶畑も壊滅的な被害を受けたのです。
なんとなく、見当がつきますよね?
リーの姉ラシルは、遠い昔、その伝説の少女だったのかなって。
詩人が処刑されたあと、彼女は〈天の声〉を聞き、村人たちを東へと導くのですが、
当時、詩人とラシルは遠く離れて、互いの存在を知らないながら、
魂の深いところではつながっていたのかな、と感じています。
その2000年後、ルシタナの時代、ふたりは現実の世界で会います。
『石と星の夜』で、暗殺事件を追う諜報員パーセローが、
ひとめ惚れした宿屋の娘、サラの証言によって、たどりつく村がラシル。
(でも、サラは彼の追う容疑者に恋しているから、思い切り片思い。)
パーセローは、トゥーリー(黒のジョー。のちのリー)と協力して、
巨大な陰謀に立ち向かい、
それが縁で、サラとトゥーリーは会うことになるのですが、
書きながら、サラの前世は伝説の娘ラシルだったかも、と思っていました。
今回、薬草使いの少女として登場したラシルは、
茶畑を救ったときと同じ名前を授かり、やっぱり、自然を愛し、薬草を摘み、
あらたな時代に生きている、そんな感じがしています。
『石と星の夜』で彼女に恋したパーセローは、
不器用で、なかなか気持ちを打ち明けられなくて、書く方としては、
もう〜!って感じでした。
(諜報員としては、パーセローはよく動き、よくしゃべり、勘も鋭く、
本当に書きやすいキャラだったのですが、恋となると、てんでだめ。)
『ユリディケ』では、最初からもう少し楽しく出逢えて、恋ができると
いいなと思って、彼には、ルシナンの若き将校パーシー大尉役で
登場してもらいました。
同僚だったワイスとは今度も仲間。
そしてラシルには、やっぱりひとめ惚れ。
パーシーという名前は、『石と星の夜』を書く際、
パーセローという音が覚えにくいかな、と、代案として考えた名前です。
ひょろりと背が高く、明るい茶色の瞳で、金髪をしているのは、
パーセローのときと同じ。
ただし、違うところが一点。
前は、額の生え際が後退しかけて、髪が薄いのを気にしている若者だったので、
今回は、彼のあこがれだった、ふさふさの金髪にしました。
前回がんばってくれたもんね。それくらいご褒美がないとね。
ラシルとパーシーが、この先どうなるかは、わかりません。
ラシルは、村の薬草使いとして生きる決意をしているし、
彼の方の未来は(かなり長く蒼穹山麓にいるとしても、その後は)不確かです。
でも、わたしとしては、立場の違いや、さまざまな障害を乗り越えて、
うまくいくんじゃないかな、と思っています。
薬草使いの少年Part3 ― 2022年10月08日 18:23
リーのことで、執筆中からずっとわからないことがあると書きました。
それは、三粒のダイヤモンドを守ったのは、リーか?
あるいは、二千年前の幼いトゥーリーか? ということです。
リーは夢で、黒衣の男(かつてダイロスの師であったガリウス)が
フィーンのダイヤモンドに刃を入れる夢を見ます。
二千年前、ガリウスが、ダイヤモンドから光の剣を切り出す瞬間です。
夢の中のリーは、魂となって浮かんで、その様子を見ていますが、
ダイヤモンドの切り口から、涙のような雫がきらきらとこぼれ落ちたとき、
思わず身体がないのも忘れ、小さな手をさしのべます。
光の剣が切り出されたあと、
残りのダイヤモンドは光となって消えてしまいますが、
本当ならたくさん残っているはず。
それで王冠を造らせようとしていたダイロスは、怒り狂います。
どこに隠したかガリウスを問い詰め、家臣たちに工房を探させますが、
光となって消えたダイヤモンドは、当然見つかりません。
一方、密かにこぼれ落ちた三粒の雫は、小さな手の中で守られ、
その後、ガリウスに見いだされます。
二千年前、ガリウスがダイヤモンドから光の剣を切り出したのは、
最果ての国に住む男の子トゥーリーが、旅芸人にさらわれたすぐあとのこと。
小さなトゥーリーは二歳でした。
雫を手にするシーンのイメージは、小さな男の子の、小さな手だったし、
トゥーリーの魂は、昔からガリウスともルシタナともゆかりが深かったから、
ダイヤモンドが切り出された瞬間、空間を超えて、
その雫を守ったのかなと思っていました。
(ガリウスは、三粒のダイヤモンドを密かにブレスレットにして、
のちに、盗賊となったトゥーリーと地下牢で出逢ったとき、
彼に託して脱獄させます。)
そんなわけで、リーが姉のラシルに、その夢のことを打ち明けるとき、
彼はこんなふうにいいます。
「ぼくはまだ幼くて、小さな手のひらの上で、大きな雫が三粒、さざめくように
輝いていたよ」
でも、書いているうちに、もしかして、この男の子って、今のリーで、
時空を超えて、ダイヤモンドの雫を守り、ルシタナとユナを助けたのかな、
とも思えてきました。
時間はまっすぐに流れているわけじゃないというし、そういうこともあろうかと。
で、いまだにそれはわかりません。
時空を超えて、ふたりは同一人物だから、両方ってこともあるかもしれないし。
そこは、読む方それぞれの好きなように解釈してもらえたら、
一番いいかなと思っています。
ところで、今回、フィーンの船の中で登場する干し杏の入った焼き菓子ミンカ。
こちらは、リーが小さなトゥーリーだったとき、母親がいつも焼いてくれた
トゥーリーの大好物。
〈サラファーンの星〉では、その母親がミンカを焼いているあいだに、
庭に出たトゥーリーが、通りかかった旅芸人に連れ去られてしまいます。
トゥーリーにとっての、大切な味。
だからもう、二千年ののちも、そのお菓子に夢中になってしまいます。
今回も、その母親とリーは、いつかどこかで会えるに違いありません。
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