なでしことローレア2023年07月31日 21:20


夕空に浮かぶ月

土曜日の名古屋の夕空。夕焼けの薔薇色の雲の中に、満月に近づきつつある月が輝いていて
とてもきれいでした。わたしのiPhoneだとこれが限界かな。満月に見えちゃいますね。
(満月は明日あたりかな。)

今日は朝一番で母の内科の診察に付き添ったあと、午後にはリハビリに行くはずが、
家の中で二度続けて小さな怪我をしたため(わたしはかなりのドジです)、明日にしました。
怪我は全然たいしたことないのですが、こんな日はおとなしくしていたほうがいいかな、と。
そんなわけで、午後はワールドカップを観戦しました。
なでしこJAPAN、ひと試合ごとに成長してゆくのが目に見えるようですね。
強豪スペイン相手に、一瞬の隙をつき、目の覚めるような怒涛の4ゴール!
ものすごかったですね。選手たちまぶしかったです。決勝リーグも大きなエールを送ります!
昨日まで行われていた世界水泳もみんな素敵でした(日本だけでなく、各国の選手たちが)

サッカーに戻りますが、「大和撫子」からきている日本チームの愛称なでしこ。
なでしこって野に咲く本当に可憐な花ですよね。
サラファーンや『ユリディケ』に登場するローレアも野に咲く花を思い浮かべて書きました。
れんげ草が絨毯のようにあたりを一面に染める田舎で育ったので。
(れんげは濃いピンクですが、ローレアは水色です。)
物語の中には『麗しのローレア』という、人々にずっと愛されてきた歌が出てきますが、
書きながらいつしかメロディが頭に流れていました。
それをずっと奏でたいと思っていて、ようやく電子ピアノを買いました。なかなか
あちこちのショールームに行けないので、思い切ってネットで。
これで、『麗しのローレア』をピアノで奏で、きちんと譜面に起こすという長年の思いが
ようやく一歩前進しました。
(作曲なんてしたことないし、ほんとシンプルな曲なんですけど、無謀にも、『ユリディケ』
の本のトレイラーのBGMに入れようと思い続けていたのです。出版も決まってないのに、
新バージョンを本にしたいという思いだけはずっと持ち続けていて。

ピアノを弾くのは何十年ぶりです。(だいじょうぶか???)
主旋律(ピアノの右手)は、四部作を書き上げたあとに譜面に起こしていたのですが、
複旋律が、頭の中では鳴ってるものの、ピアノの音と合わせてみないことには書けなくて
(そもそもヘ音記号での譜面の読み方を忘れている)それをしたいと思っていました。
自分が弾いたら自動でそれを譜面にしてくれるアプリがあるのでしょうけれど、
パソコンとかアプリとか苦手だし、地道に一音一音確認しながら書くことにします。
複旋律はいろんなバリエーションが浮かぶので、時間をかけて、一番ぴったりする音に
したいです。(その前に、指を動かす練習しないと!)

ローレアの花は、絵の上手な友人が、わたしのものすごーーく細かい注文を聞いて
何年も前に描いてくれているので、それもいつか紹介したいと思っています。
心身の調子が戻ってきたら、Websiteにも載せられたらいいなぁ。一歩ずつ進めますね。
『ユリディケ』の地図もまだ途中なので、頑張ります!

北欧の馬と物語の中の馬2023年07月28日 15:23


北欧の馬
                          Copyright © Mayumi F.

こちらは北欧に留学していた友人が送ってくれたフィンランドの馬。葦毛と鹿毛でしょうか。
森と草原と馬。馬も森も大好きなわたしは、どれだけ眺めていても飽きません。
フィンランドの風と光まで感じさせてくれる光景に、写真の世界に入ってしまいそうです。

かつてデビュー作として『ユリディケ』を書いたときから、馬は大切なキャラクターでした。
その2000年前の伝説の時代から、人間のキャラクターが転生しているわけですので、
〈サラファーンの星〉四部作を描く時には、
馬も絶対に生まれ変わって、もとの主と会ってるよね、と思いました。

ルドウィンの馬アリドリアスは、ことさらに出したかったです。
ただ、最初はルドウィン(2000年前はウィルナー)の馬ではないという気がしたし、
森で駆けているイメージが浮かんだことから、ルシタナと父親が、傷ついた子馬を助ける
シーンも浮かび、ルシタナとランドリアの馬にしました。
名前は、同じアリドリアス。ウィルナーの魂の奥に刻まれた名前だったと思います。
それで、そうつけたんじゃないかなって。

不老長寿の種族フィーンのヨルセイスは、『ユリディケ』でも四部作でも同じ月光を
帯びたような美しい葦毛に乗っています。長年の愛馬です。
夜明けの風を意味するシルフィエム。今回初めて名前が出せてよかったです。
ヨルセイスが迷宮に向かう際に乗る雪のように白い馬も、
四部作から引き継いだ馬です。(シルフィエムは人間の友のために残しておいた

また、ヒューディの前世である少年は、アンバーという鹿毛を大切にしているので、
やはり、新バージョンの『ユリディケ』には登場させたいと思って、終盤に出しました。

それから、旧バージョンの『ユリディケ』に登場したローレアについて。
ネット連載にはそのままローレアという名を出していますが、
紙の本にしようとしている現在手元にある最新の原稿ではカットしました。というのも、
四部作にローレアという名の馬がでてきますが、全く別の存在だという気がして。

そのほか、四部作に登場して、気になっている馬が、ウィルナーの愛馬テス。
『ユリディケ』の物語中にはでてこなかったけれど、彼らの人生は続くわけですし、
きっとどこかで再会するんじゃないかなと思っています。

昔『ユリディケ』を書いて、そのあとで2000年前にさかのぼった物語を書き、
ふたたびこうして『ユリディケ』に戻ってくると、人間のキャラクターだけではなく、
動物たちにも変化がでてきて、書きながら、いろいろな発見がありました。

それにしても、毎日本当に暑いですね。大雨の被災地での復旧作業、想像を絶します…。
一日も早く復旧しますように。そして、どうにかこの暑さがおさまりますように
世界中大変ですが、どうにかみんなで助け合っていきたいです。
せっかくこんなに美しい星に生まれたのですから。

今年も杏ジャムを作りました2023年06月25日 15:30

初めて手作りの杏ジャムを口にしたのは、ずっと昔『ユリディケ』を出版する前後、
友人たちと埼玉の美しい清流沿いを旅したときのこと。
その小さな町には友人の友人が住んでいて、彼女の家でお茶をした際、杏ジャムをたくさん
作ったからと、いただきました。新鮮で甘酸っぱく、ものすごく美味しくて(市販のより
甘さ控えめで)、みんなでこんな杏ジャム食べたことないねと話したら、
「あら。簡単よ。杏と砂糖と煮るだけ」と、作り方を教えてくれて、全員にお土産として
小さなタッパーに分けてくれました。

その味が忘れられず、翌年、信州の果樹園を探して、杏を取り寄せ、ジャムを作りました。
こんな不器用者にもできるのか?と半信半疑で。
そうしたら! ちゃんとできたのです。
杏に切り目を入れて、くるっとひねって種を取り、鍋に入れてグラニュー糖をふりかけ
(長持ちさせるには杏の量の50%だけど、わたしは少なめにします)一晩置いて火にかけ
アクを取りながら煮るだけ。そっとかきまぜるのがコツです(果実感が残るから)。
その後、姪と甥が生まれ、ふたりとも杏ジャムが大好きになり、ほぼ毎年作るように。

今年は杏の出来がよくないと聞いて心配しましたが、なんとか2キロ手に入り
まずは、よく色づいた半分を糖度33度で作りました。

杏ジャム糖度33

少し手間なのは、このアクを取る段階だけ。5分もすればきれいになります。

杏ジャム作り

まだ熟していなかった分は、数日後、色づいてから28度で作りました。
酸味が強いので、ヨーグルトによく合います。

杏ジャム糖度28

埼玉の清流を訪れた時、一緒にいたのがイタリア人のジュリアーノさん。
『ユリディケ』の印税をぜ〜んぶはたいて5週間ヨーロッパを旅したとき、
イタリアを案内してもらい、フィレンツェでは彼の知っている修道院に滞在。
生の杏がデザート用に食卓にでていて、陽気なシスターたちと、毎日いただきました。
そのさわやかさも忘れられません!
そうしてますます杏大好き人間が出来上がり、〈サラファーンの星〉シリーズでは、
杏は欠かせないアイテムとして物語に出しちゃいました。
そのまま食べたり、ジャムにしたり、「カシェル」という郷土料理にも使ったり。
杏の最も重要なシーンは、「ミンカ」という焼き菓子に使われるところ。
幼い頃にさらわれた少年(盗賊の親方に命を救われ、やがてあとを継いで黒のジョーに)
の母親(ヨハンデリ夫人)が作ってくれた「おふくろの味」です。彼は2歳だったので
焼き菓子のことは覚えていませんが、その香りはしっかりと心に刻まれています。

杏は、新バージョンの『ユリディケ』でも使いました。
ユナとレアナの家には、杏の木があるし、エンディング近く、リーが杏入りの
焼き菓子「ミンカ」に目を輝かせるシーンを入れました。
リーは黒のジョーの生まれ変わりなので、絶対にこれが好きだなって思って。
ヨルセイスが、その昔エルディラーヌに渡った人たちから教わったと言っていますが、
教えたのはもちろん、ヨハンデリ夫人。
そんなことを新バージョンにひそませるのも、楽しかったです。
(犬好きですがーーなかなか事情があってかえません(T_T)ーーもしいつかわんちゃんに
ご縁があったら、「あんず」って名前にしちゃおうかな〜)

由奈さんとユナと広島サミット2023年05月21日 22:00

G7広島サミットが閉幕しました。
サミットの重要課題のひとつが、「核軍縮・不拡散」。
核兵器の脅威がかつてなく高まっているいま、その会議が被爆地広島で行われ、
各国のトップやEU大統領たちが原爆資料館を訪れたことは、
とても意味のあることだと思います。

訪問が40分だったことは、被爆された方やご家族にとって、
明らかに少なすぎる時間に違いありません。それでも、実際になにがあったかを
見てもらえたことは、大きいのではないでしょうか。
以前、わたしも資料館を訪れましたが、原爆が落とされた時間で止まった時計や、
幼い子が乗っていた三輪車、ぼろぼろになった服などを実際に目にした体験は、
それまで情報として得たこととは、まったく違いました。

今夜、ゼレンスキー大統領の演説を聞きましたが、「人影の石」に二度ふれたことが
とても印象的でした。
「人影の石」は、資料館の中でも最も衝撃的な展示物のひとつです。
銀行の前の石段で、そのとき座っていた人が、黒い影だけになって残った負の遺産。
ゼレンスキー大統領も、強烈なインパクトを受けたことがうかがえました。
ウクライナの街が、たったひとつの影のある石を残して消え去るかもしれなかった、
あるいはそうなるかもしれない脅威。
そして、今後、世界が、そうなるかもしれない脅威……。

中日新聞の連載で、「祈り」をテーマにした広島サミット特集を読みましたが、
その初日が、広島大学の一年生、岡島由奈さんのお話でした。
由奈さんは、ひいお祖父様を被爆で亡くされています。そのため、原爆は
「怖くて、見たくないもの」でしたが、被爆者である高見藤枝さんの体験を聞いて、
考えが変わり、広島サミットを核なき世界へ前進させる機会として成功させたいと、
インターネットで署名を集めてきたそうです。
被爆者からバトンを受け継ぎ、核なき世界を目指す動きを、次世代につないでゆくのが
役目だと語っています。

「ゆうな」さんとお読みするようですが、漢字が「ゆな」と読めることから
なんだか(勝手に)親しみを覚えました。ユリディケのヒロインはユナ。
(追記:今夜22日テレビで「ゆな」さんと紹介してました。ごめんなさい&嬉しいです。)
最初の原稿を書いた時、20代だったわたしは、物語に平和な美しい世界への祈りを
込めました。その2つの柱が、核なき世界と地球温暖化を止めることでした。
時は流れ、世界はいま、その願いとはまったく逆の方向へ向かっています。
すごく虚しさを感じるときがあります。

由奈さんも、自分の活動に意味があるのだろうかと迷いが生じることがあるといいます。
周りの同世代に話をしても、多くは関心が高くないと感じるそうです。
それでも、後悔がないよう行動したいという由奈さん。
被爆者から直接話を聞ける最後の世代だという危機感を抱き、先頭に立っていこうと
考えているそうです。ぜひ応援したいです。
若い人が頑張っているのだから、わたしも頑張らなくちゃ。

ゼレンスキー大統領は、スピーチのなかでいっていました。
人は戦争はなくならないというけれど、
ロシアが戦争をしかけた最後の国となりますように、と。

人は戦争をするものだ、というのは、戦争をしたがる人の言い訳だと思います。
核兵器を持つことが戦争を抑止する、ということも、幻想だと感じます。

どんなことも、思い描くことから始まります。
核兵器を生み出すこともそうでした。誰かが思い描いたから、実現した。
だとしたら、平和な世界を強く思い描けば、実現できるはずです。
G7広島サミットが、その第一歩であったと、後に振り返ることができますように。
そう願ってやみません。

『ユリディケ』改稿版〜紙の本の出版を目指して2022年11月03日 14:03

『ユリディケ』を紙の本にしようと思っています。
まだ夢の段階です。
1993年に理論社から第4刷が出たのを最後に、絶版になっていますし、
今回、改稿した新バージョンは、まだネット連載のみの発表。
〈サラファーンの星〉四部作とのつながりを深く感じられるよう、後半、
大幅に変更したこともあり、作者としてきちんとした形にする責任も感じています。
もちろん、電子ブックにもしたいと思っています。

紙の本の出版はとても厳しい状況ですが、
自費出版とか、クラウドファウンディングとか、なにか方法があると思って、
ともかく、自分にできることから、コツコツしています。
紙の場合、ページ数が多いとそれだけ価格も高くなり、作る方も買う方も負担が大きい。
なので、今は、改稿版を(密かに)できる限りシェイプアップしています。

でも、わけがわからなくなっては、元も子もありません。
短くする場合は、逆に、読みやすくなることが絶対条件です!
ある程度出版の目処が立ったら、ネット版を非公開にして、そこからさらに、
磨いていくことになりますが、まずは今できることを少しずつ。

地図も添えたいけれど、大異変を経て、サラファーンの時代とかなり地形が変わって
いるので、それを反映して、物語に矛盾しないよう、作り込んでいかないと。
登場人物表のほか、相関図もあったほうがいいかなぁ。

まだ心身の調子が万全ではなく、なにごとも遅い。ブログもさらさら書けていたのが
遅い。病気の治りの遅いのもじれったく、つい頑張ると、翌日一日寝込む羽目になり、
何度も痛い目にあっているので、だいぶペースがわかってきました^^;
こうしてブログに復帰し、少しずつ書くことも、心のリハビリにもなっていくんじゃ
ないかな。(心の病気のこともーーいま社会でも大きな問題になってますねーー
話していこうと思っています。)

紙の本で読みたいと言ってくださる方がいますし(最終的にどれくらいの
需要があるかわかりませんが)、わたしも紙の本が好きなので、
ほんと亀の歩みのようだけど、目標に向かって、一歩一歩、進んでいきますね!

庭師のサピ〜心優しい脇役2022年10月28日 14:00

サンザシ館の心優しい庭師のサピは、『ユリディケ』のオリジナル版では
影も形もありません。でも、〈サラファーンの星〉で、サンザシ館の庭師だった
サピには、ぜひ出てほしくて、改稿版では、
発掘された迷宮の薬草園の庭師として、登場してもらいました。

(サラファーンでは、本人は一度も登場せず、人の話の中に庭師として
出てくるだけです。脇役の中でも脇役だったので、
『ユリディケ』で庭師のサピが出てきたとき、
あ、これもしかして、サンザシ館の庭師のサピだった人?と気づく方は
限りなくゼロに近いというか、おそらく誰もいないだろうと思います。
ただ、作者として庭師のサピは好きだったので、今度こそ、
セリフも動きもあるキャラクターとして、出てほしくて。)

で、『ユリディケ』では、薬草使いのリーと一緒に薬草の世話をしていて、
リーのことをさりげなく気にかけてくれる、やっぱり心優しい庭師です。
素朴で、ほとんど話さなくて、いつもぼんやりしたように見えますが、
植物を愛し、心を込めて世話をしていて、実は、観察眼も鋭い。
ほんとうに出番の少ない脇役だけど、
横暴な将校から、リーを守る(それが結果としてユナを助けることに
つながる)重要な役割も帯びています。

四部作では、最終的に、少しでも短くするため(ページ数の制限から)
サピの部分をかなりにカットしたので
前にこのブログで彼のことを書いた時、もしかして全部カットしてるかも、と
お話したのですが、きちんとチェックしたら、わずかに残っていました。

『星の羅針盤』で、スピリがサンザシ館の名の由来となった、玄関の東にある
サンザシのことを、語るシーン。
八重のサンザシもあるけれど、一重のほうが奥ゆかしくてずっと気品があるとして
「庭師のサピも昨日そういってましたっけ。たまにはあの子もまともなことを
いいますね」というセリフ。
サンザシ館のサピは、やっぱりぼんやりとした青年で、これはカットしてしまった
けれど、服をよく前後ろに着て、全然気がつかない、といったキャラ。
植物が好きで、たぶん奥手で、ガールフレンドもいない。
でも、庭の手入れをして、植物と話すのが、なによりも好き。

『星水晶の歌』では、そのサピも、戦争に行ってしまいます。
(最初の音楽祭の時は、もくもくと手伝ってくれたのに、二度目の音楽祭の時は
遠い異国の戦場にいます。)
彼がどうなったか、四部作ではふれていませんが、きっとフィーンに助けられて
エルディラーヌに渡ったんじゃないかな。そうであってほしいです。
その願いを重ねるように、改稿版の『ユリディケ』に出てもらいました。
二千年前も、リーやラシルと会っていたんじゃないかなって、思いながら。

脇役って、妙に気になってしまって、その人の背景、家族、生い立ち、故郷など
どうなのかなって、考えることが案外あります。
メインの登場人物は、もちろん、厚いファイルになるほど徹底的に
人物造形を考えますが、脇役にはそこまで時間をさきません。
(というか、締め切りを考えると、その余裕がないんですね。)
でも、なんだか脇役って、好きになってしまうんです。だから、その人に関して
知りたくなってしまうというか。
たとえば、ドーリーの奥さんとかもそうだったなぁ。
意外に、謎めいたまま(作者にもなかなか身の上を明かさない)なのが、スピリでした
そういうところも含めて、彼女のキャラだったのかな、と、今あらためて思います。

薬草使いの少女ラシル(&パーシー大尉)2022年10月11日 14:50

弟が大好きなんだけど、自分にはないその才能に、嫉妬も感じてしまう

リーの姉ラシル。

リーが、まっすぐで、いつも心のまま、直感に従って大胆に動くのと比べ、

内向的で理性的。行動も控えめ。(少し複雑な内面を抱えていますが、

心の奥はとても清らかです。)

 

彼女を深く知るのは、ちょっと時間がかかったけれど、

名前はすぐに浮かびました。

ラシル。〈サラファーンの星〉に名前だけ登場する伝説の少女の名。

ルシタナの時代よりもさらに二千年前、干ばつに苦しむ茶の村で、

村人たちを新たな地へと導いたという少女です。

枯れ果てた茶畑で、ただ一本だけ残った若木をたずさえて、

長く厳しい旅の果て、ラシルと村人たちは、

茶の栽培にふさわしい、霧と春の雨に恵まれた土地を見いだし、

村は少女にちなんで、ラシルと呼ばれるようになります。

 

前々回、薬草使いの少年Part2で話したように、

その遠い時代、リーは愛と平和をうたう詩人でした。

彼は反戦を訴え、時の国王(のちのグルバダ)に処刑されますが、

その翌年、大干ばつが世界を襲い、

ラシルの村の茶畑も壊滅的な被害を受けたのです。

なんとなく、見当がつきますよね?

リーの姉ラシルは、遠い昔、その伝説の少女だったのかなって。

詩人が処刑されたあと、彼女は〈天の声〉を聞き、村人たちを東へと導くのですが、

当時、詩人とラシルは遠く離れて、互いの存在を知らないながら、

魂の深いところではつながっていたのかな、と感じています。

 

その2000年後、ルシタナの時代、ふたりは現実の世界で会います。

『石と星の夜』で、暗殺事件を追う諜報員パーセローが、

ひとめ惚れした宿屋の娘、サラの証言によって、たどりつく村がラシル。

(でも、サラは彼の追う容疑者に恋しているから、思い切り片思い。)

パーセローは、トゥーリー(黒のジョー。のちのリー)と協力して、

巨大な陰謀に立ち向かい、

それが縁で、サラとトゥーリーは会うことになるのですが、

書きながら、サラの前世は伝説の娘ラシルだったかも、と思っていました。

 

今回、薬草使いの少女として登場したラシルは、

茶畑を救ったときと同じ名前を授かり、やっぱり、自然を愛し、薬草を摘み、

あらたな時代に生きている、そんな感じがしています。

 

『石と星の夜』で彼女に恋したパーセローは、

不器用で、なかなか気持ちを打ち明けられなくて、書く方としては、

もう〜!って感じでした。

(諜報員としては、パーセローはよく動き、よくしゃべり、勘も鋭く、

本当に書きやすいキャラだったのですが、恋となると、てんでだめ。)

『ユリディケ』では、最初からもう少し楽しく出逢えて、恋ができると

いいなと思って、彼には、ルシナンの若き将校パーシー大尉役で

登場してもらいました。

同僚だったワイスとは今度も仲間。

そしてラシルには、やっぱりひとめ惚れ。


パーシーという名前は、『石と星の夜』を書く際、

パーセローという音が覚えにくいかな、と、代案として考えた名前です。

ひょろりと背が高く、明るい茶色の瞳で、金髪をしているのは、

パーセローのときと同じ。

ただし、違うところが一点。

前は、額の生え際が後退しかけて、髪が薄いのを気にしている若者だったので、

今回は、彼のあこがれだった、ふさふさの金髪にしました。

前回がんばってくれたもんね。それくらいご褒美がないとね。

 

ラシルとパーシーが、この先どうなるかは、わかりません。

ラシルは、村の薬草使いとして生きる決意をしているし、

彼の方の未来は(かなり長く蒼穹山麓にいるとしても、その後は)不確かです。

でも、わたしとしては、立場の違いや、さまざまな障害を乗り越えて、

うまくいくんじゃないかな、と思っています。

薬草使いの少年Part32022年10月08日 18:23

リーのことで、執筆中からずっとわからないことがあると書きました。

 それは、三粒のダイヤモンドを守ったのは、リーか?

あるいは、二千年前の幼いトゥーリーか? ということです。

 

リーは夢で、黒衣の男(かつてダイロスの師であったガリウス)が

フィーンのダイヤモンドに刃を入れる夢を見ます。

二千年前、ガリウスが、ダイヤモンドから光の剣を切り出す瞬間です。

夢の中のリーは、魂となって浮かんで、その様子を見ていますが、

ダイヤモンドの切り口から、涙のような雫がきらきらとこぼれ落ちたとき、

思わず身体がないのも忘れ、小さな手をさしのべます。

 

光の剣が切り出されたあと、

残りのダイヤモンドは光となって消えてしまいますが、

本当ならたくさん残っているはず。

それで王冠を造らせようとしていたダイロスは、怒り狂います。

どこに隠したかガリウスを問い詰め、家臣たちに工房を探させますが、

光となって消えたダイヤモンドは、当然見つかりません。

一方、密かにこぼれ落ちた三粒の雫は、小さな手の中で守られ、

その後、ガリウスに見いだされます。

 

二千年前、ガリウスがダイヤモンドから光の剣を切り出したのは、

最果ての国に住む男の子トゥーリーが、旅芸人にさらわれたすぐあとのこと。

小さなトゥーリーは二歳でした。

 雫を手にするシーンのイメージは、小さな男の子の、小さな手だったし、

トゥーリーの魂は、昔からガリウスともルシタナともゆかりが深かったから、

ダイヤモンドが切り出された瞬間、空間を超えて、

その雫を守ったのかなと思っていました。

ガリウスは、三粒のダイヤモンドを密かにブレスレットにして、

のちに、盗賊となったトゥーリーと地下牢で出逢ったとき、

彼に託して脱獄させます。)


そんなわけで、リーが姉のラシルに、その夢のことを打ち明けるとき、

彼はこんなふうにいいます。

「ぼくはまだ幼くて、小さな手のひらの上で、大きな雫が三粒、さざめくように

輝いていたよ」

 

でも、書いているうちに、もしかして、この男の子って、今のリーで、

時空を超えて、ダイヤモンドの雫を守り、ルシタナとユナを助けたのかな、

とも思えてきました。

時間はまっすぐに流れているわけじゃないというし、そういうこともあろうかと。

 

で、いまだにそれはわかりません。

時空を超えて、ふたりは同一人物だから、両方ってこともあるかもしれないし。

そこは、読む方それぞれの好きなように解釈してもらえたら、

一番いいかなと思っています。

 

ところで、今回、フィーンの船の中で登場する干し杏の入った焼き菓子ミンカ。

こちらは、リーが小さなトゥーリーだったとき、母親がいつも焼いてくれた

トゥーリーの大好物。

〈サラファーンの星〉では、その母親がミンカを焼いているあいだに、

庭に出たトゥーリーが、通りかかった旅芸人に連れ去られてしまいます。

トゥーリーにとっての、大切な味。

だからもう、二千年ののちも、そのお菓子に夢中になってしまいます。

今回も、その母親とリーは、いつかどこかで会えるに違いありません