ピンクレディー〜こぶりで酸味のある林檎2024年03月22日 14:24


ピンクレディ

先月、スーパーで可愛い林檎を見かけました。
ピンクレディーという名前で、酸味があると書いてあります! 最近は甘い果物が
もてはやされて、酸味のある果物本来の(と個人的に思っていますが)味が消えつつ
あり、酸っぱい果物が大好きなわたしは、果物マイノリティ。(ほんと悲しい。)
こんな機会はめったにありません。
嬉しくなって買って帰り、さっそく食べてみると、本当に酸味があって、
身が固く引き締まっていて、これぞ林檎!という美味しさです。

従兄が育てているスリムレッドも、小さくてジューシーで酸味があって美味しいです。
けれど、この季節はないので、林檎はしばらく食べられないと思っていたところに、
これは天からの贈り物。
でも、その後、二度とスーパーで見かけませんでした。
確かに、原産国のオーストラリアから栽培許可をもらって、日本でも栽培が始まった
希少な林檎って書いてあった気がします。
そこで、ググって、岩手県の果樹園から取り寄せました。箱もピンクでとっても可愛い。

ピンクレディ箱

日本で栽培している農場はまだ少なく、11月に収穫するという遅い林檎で、2月から4月が出荷時期とのこと。
酸っぱい果物が好きなマイノリティの方、スーパーで見かけたらぜひお試しを♡
(本当にカリッとかなり歯ごたえがあるので、前歯の弱い人は気をつけてくださいね。)

林檎って、本当に元気の出る果物だと感じます。なぜでしょうね。身体にもいいというから
それを全身の細胞が感じ取るのでしょうか。だからかな、神聖な果物だとも感じます。
見かけもかわいいですよね。
自分の物語にもたびたび登場させています。やっぱり好きなものを書いてしまうんです。
物語に出てくる林檎のイメージは、このピンクレディーやスリムレッド、紅玉、
グリーンスミス(日本では祝林檎かな)などのこぶりで甘酸っぱい林檎です。

『ユリディケ』の第一章にレアナの生徒、幼いハモンが出てきますが、旧バージョン
(1989年のデビュー作)では、エピローグにも登場し、
「ちょっと早いけど、うちのりんごはおいしいんです」というセリフを言います。
詳しくは書いていませんが、ハモンの家は林檎園を営んでいるんです。

そこから、『星の羅針盤』では、林檎園のハモン一家を登場させました。
たびたび書いていますが、シリーズで盗賊ジョーが地下牢を脱出するときに、
彼に力を与えるのも林檎。大事な小道具として、せひ登場させたかったのです。

『ユリディケ』の新バージョンでは、エピローグの内容をかなり変え、ハモン少年は
登場せず、よって、彼の家が林檎園を営んでいることはわかりません。
でも、わたしの中では、冒頭のハモンは、やっぱり林檎園の少年です。

今年も杏ジャムを作りました2023年06月25日 15:30

初めて手作りの杏ジャムを口にしたのは、ずっと昔『ユリディケ』を出版する前後、
友人たちと埼玉の美しい清流沿いを旅したときのこと。
その小さな町には友人の友人が住んでいて、彼女の家でお茶をした際、杏ジャムをたくさん
作ったからと、いただきました。新鮮で甘酸っぱく、ものすごく美味しくて(市販のより
甘さ控えめで)、みんなでこんな杏ジャム食べたことないねと話したら、
「あら。簡単よ。杏と砂糖と煮るだけ」と、作り方を教えてくれて、全員にお土産として
小さなタッパーに分けてくれました。

その味が忘れられず、翌年、信州の果樹園を探して、杏を取り寄せ、ジャムを作りました。
こんな不器用者にもできるのか?と半信半疑で。
そうしたら! ちゃんとできたのです。
杏に切り目を入れて、くるっとひねって種を取り、鍋に入れてグラニュー糖をふりかけ
(長持ちさせるには杏の量の50%だけど、わたしは少なめにします)一晩置いて火にかけ
アクを取りながら煮るだけ。そっとかきまぜるのがコツです(果実感が残るから)。
その後、姪と甥が生まれ、ふたりとも杏ジャムが大好きになり、ほぼ毎年作るように。

今年は杏の出来がよくないと聞いて心配しましたが、なんとか2キロ手に入り
まずは、よく色づいた半分を糖度33度で作りました。

杏ジャム糖度33

少し手間なのは、このアクを取る段階だけ。5分もすればきれいになります。

杏ジャム作り

まだ熟していなかった分は、数日後、色づいてから28度で作りました。
酸味が強いので、ヨーグルトによく合います。

杏ジャム糖度28

埼玉の清流を訪れた時、一緒にいたのがイタリア人のジュリアーノさん。
『ユリディケ』の印税をぜ〜んぶはたいて5週間ヨーロッパを旅したとき、
イタリアを案内してもらい、フィレンツェでは彼の知っている修道院に滞在。
生の杏がデザート用に食卓にでていて、陽気なシスターたちと、毎日いただきました。
そのさわやかさも忘れられません!
そうしてますます杏大好き人間が出来上がり、〈サラファーンの星〉シリーズでは、
杏は欠かせないアイテムとして物語に出しちゃいました。
そのまま食べたり、ジャムにしたり、「カシェル」という郷土料理にも使ったり。
杏の最も重要なシーンは、「ミンカ」という焼き菓子に使われるところ。
幼い頃にさらわれた少年(盗賊の親方に命を救われ、やがてあとを継いで黒のジョーに)
の母親(ヨハンデリ夫人)が作ってくれた「おふくろの味」です。彼は2歳だったので
焼き菓子のことは覚えていませんが、その香りはしっかりと心に刻まれています。

杏は、新バージョンの『ユリディケ』でも使いました。
ユナとレアナの家には、杏の木があるし、エンディング近く、リーが杏入りの
焼き菓子「ミンカ」に目を輝かせるシーンを入れました。
リーは黒のジョーの生まれ変わりなので、絶対にこれが好きだなって思って。
ヨルセイスが、その昔エルディラーヌに渡った人たちから教わったと言っていますが、
教えたのはもちろん、ヨハンデリ夫人。
そんなことを新バージョンにひそませるのも、楽しかったです。
(犬好きですがーーなかなか事情があってかえません(T_T)ーーもしいつかわんちゃんに
ご縁があったら、「あんず」って名前にしちゃおうかな〜)

亡くなった人は生きているときよりずっと近くにいる〜『盗賊と星の雫』より2020年05月06日 00:08


大好きな伯母と

4月最後の日曜日、大好きな伯母が急逝しました。
もう十日になるけれど、いまだに信じられないでいます。
あまりに突然だったから。

伯母は母の姉で、母ととっても仲良し。母の実家の鳥取にいました。
長女(わたしの従姉)はわたしと同い年で、夏休みにはよく遊びに行き、
妹もわたしも、すごく可愛がってもらいました。

鳥取砂丘や、人のいないとっておきの海岸に連れて行ってもらって、
どこまでも透明な海に感激したり、かや(テントみたいな蚊よけの布。
天蓋つきベッドのように、布団の上につるもの)の中で一緒に寝たり、
伯母の素朴な家庭料理も美味しくて、思い出がいっぱいあります。

伯母は9人兄弟のちょうど真ん中。
わたしの母は末っ子で、やはりとても可愛がってもらったそうです。
そんな大家族のなか、伯母は、一族の語り部のような人で、
戦争や鳥取大地震を経験して、さまざまな家族の歴史を知っていて、
事実は小説より奇なり、ということを、実感させてくれる話の数々に
いつもドキドキしたり、ワクワクしたり、ゾクゾクしたり。

わたしは実際あったことは、ほとんど小説に使いませんが、
伯母や母から聞いた、祖父の情熱的な恋物語は、ダン伯父さんの
プロフィールに投影しています。
また、別の親せきで「歌舞伎役者のようないい男」だった人の駆け落ちの話や
戦後満州から命懸けで日本に帰ってきた人の話も、すごくドラマチックでした。

そんな伯母でしたが、自分の話はほとんどしませんでした。
早くに夫を亡くし、そのご事情があって子ども達と別れて暮らしていたので、
どんなに寂しかったかと思うけれど、人生の苦労を静かに受け止めていました。
やがて、鳥取の実家で父親を看取り、妻に先立たれて戻ってきた兄も看取り、
ほかの身内の面倒もとてもよくみて、無償の愛で尽くす人でした。

一人暮らしだった晩年、従姉がハワイのアメリカ人と結婚しました。
その人が、もう信じがたいほど温かな男性で、
冬のあいだ、ハワイの従姉夫婦の家に滞在するのが、伯母の習慣になりました。
(写真は数年前ハワイを訪ねた時のものです。)
従姉は、子どものころは一緒に暮らせなかったけれど、
その分も思い切り親孝行して、伯母は本当に幸せだったと思います。

この前の冬もハワイで過ごし、従姉が3月に送ってきて
帰国後2週間、従姉とふたり、家で自主隔離していました。
その期間が無事に過ぎ、従姉がハワイに帰って2週間あまり。
従姉が前日電話したとき、少し気分が悪いから休むと言っていたそうです。
そのまま眠るように旅立ったのだと思います。
日曜日、近所の友人が電話に出ないと警察に通報してくれてわかりました。
検死の結果は、心臓の急な病とのことでした。

葬儀に行くつもりで、鳥取に発つ用意をしたのですが、わたしたち親族は
特別警戒都道府県である、東京や愛知や岐阜に住んでいます。
みんなで話し合って、行くのを控え、
鳥取の親せきと長男夫婦だけでの葬儀となりました。
最後にひと目会ってお別れしたかったけれど、誰よりも飛んで来たかった人、
ハワイの従姉が、帰国のすべがなくて、会えなかったことを思うと、
そのことが一番切なかったです。

でも、そんな悲しみの中でも、昔からずっと思っていたことがあります。
「亡くなった人は生きているときよりずっと近くにいる」ということ。
だって、身体がないから。魂は自由に羽ばたけるから。

子どもの頃から人の死を身近でたくさん見てきて、
自然とそう感じるようになりました。

『盗賊と星の雫』で、ヨルセイスは、両親を殺された幼いルカに
その言葉をいいます。
(ヨルセイスも、孤児として、とても寂しい思いをしてきたのです。)

そうはいっても、大切な人の死は、なによりも辛いです。
その人の声を聞いたり、姿を見たり、手をつないだり、ふれたりできないから。
そのことは、永遠に寂しいです。
でも、それは、その人が、それだけ大切な存在だったという証。
愛した分だけ、悲しみも深い。

従姉は帰国できなかったし、伯父や従兄弟たちも、母もわたしも
コロナウイルスのせいで葬儀に行けなかったけど、
ひとつだけ、よかったと思えたことがあります。
それは、いつも、帰国しても仕事で忙しく飛び回っている従姉が
自主隔離のために、二週間たっぷり伯母と過ごせたこと。
ふたりで、こんなに一緒にゆっくりしたことないね、と話していたそうです。
伯母も、どんなにか嬉しかったことでしょう。
伯母のやさしい笑顔が、浮かんできます。
今夜、夢であえるかな……。

『盗賊と星の雫』〜黒のジョーとジョサの秘密2020年02月25日 11:50


『盗賊と星の雫』書影

第3部『盗賊と星の雫』には、
ギルデアの地下牢に囚われた盗賊ジョーが、老人ガリウスから
〈サラファーンの星〉にまつわる伝説を聞き、
世界を救う鍵となるダイヤモンドのブレスレットを彼に託され、
地下牢を脱し、危険な旅に出る……
という話が出てきますが、4部作のアウトラインを考えた当初は、
ジョーのシーンはそれほど多くなるはずではありませんでした。

もちろん、サラファーンの星のかけらのブレスレット〈星の雫〉を
ジョーが運ぶ、というプロットは、最初からありましたし、
それは物語の核を成す重要な要素ですが、ジョーのシーンは要所要所に
出てくるだけだったのです。

ところが、第1部が世に出たとき、
「短編を読むとしたら、どの登場人物の話がいいですか?」
というアンケートを、友人や知人に片っ端からしたところ
ジョーはほかをぐんと引き離し、ダントツの1位でした。
第1部では、ジョーは本当に少ししか出てきません。
なので、とても意外でした。

短編を書くのはいつになるかわからないし、それならいっそ、
この長編の中で、ジョーの出番を増やそうということになりました。
その時点ではすでに第2部はほぼ仕上がっていたので、
第3部から、ということで。
タイトルも、当初は『アイラの歌』でしたが、ジョーの出番が増えた
ことで、『盗賊と星の雫』に変更しました。

ところで、ジョーがガリウスから聞く、過去の伝説の物語は、
初稿では、いまの倍の長さがありました。
編集の小林さんは、『石と星の夜』に続いて、大幅にカットするよう
アドバイスしてきました。
伝説や過去の話があまり多いと、たしかに、間延びしてしまいます。
それはあとで別の物語にすればいいのでは?ということになり、
今回も、思い切ってたくさんカットしました。

『盗賊と星の雫』では、ジョーの物語と並行して、音楽家の道を
ひた走るジョサの物語が語られ、彼の秘密が明かされていきます。
これまで少しずつヒントを入れてきたので、読んでいて気がついた人も
いるかもしれません。
ジョサが体験する悲劇とともなって、
明るく脳天気な少年の裏の顔が見えてくるという展開です。
なにごとも、なにものも、見かけとは違う。
しばしばそう感じることがありますが
ジョサという少年には、そのことが、よくあてはまると思います。

第3部であたらに登場する、天上の声を持つ少女チェチェは、
物語を書き始めたときには、影も形もありませんでした。
彼女が初めて姿を見せたのは、第2部を書いているときで、
星降る野外歌劇場で、ジョサのフレシートに合わせて幼い少女がソロで
歌うシーンが浮かびました。
彼女が歌う『麗しのローレア』はメロディもあるので、歌声も聞こえるようでした。

ちょっとおしゃまで、ジョサのことを大好きな少女。
青灰色の澄んだ瞳。両親は楽団の音楽家。
生まれたときからみんなに愛されて育ったんだな、とわかる女の子。
そんな少女はきっと愛らしい名前だろうと思って、チェチェと名づけました。

この第3部で、人生の大きな転換期を迎えるステランとマリアのことや、
ジョーとガリウスに関しても、まだいろいろ書きたいことがあるのですが、
だんだん目が限界になってきました。
(ここ数年、パソコンを見ていると目がとてもつらくなってきます。やれやれ。)
また別の機会に…。