キャラクター相関図完成しました2020年02月03日 17:38


〈サラファーンの星〉キャラ相関図

先週イラストが残っていた最後の二人、フェルーシアとステランのイラストを公開して、
ようやくキャラクター相関図が完成しました。

人物が多く、相関関係もちょっと複雑なので、読書の参考にしていただければと
相関図を作ったのはいいけれど、
イラストレーターが見つからず、自分で描くはめになったときは、
ほんとにどうなることかと思いました。

でも、頼りになる荒川ディレクターに、スケッチをチェックしてもらい
感性はびっくりするほど鋭く、性格はやさしいデザイナーの畠山さんに、わたしが
水彩色鉛筆で仕上げた絵をCGにしてもらって、なんとか形になり、ほっとしています。

最初は顔だけを描こうと思ったのですが、
荒川ディレクターは、各アイコンをクリックしたとき、全身の絵が出ると、
衣装を含め世界観がよく現れるからと、卒倒しそうなことを言うのです。
でも、どう考えてもそれは無理!
話し合いのすえ、バストアップのイラスト、というところで落ち着きました。

 ↓それぞれのキャラの詳細は、こちらから。


一番最初に、もっとも描きやすそうなエレタナを描いたので、
あらためて見ると、顔も衣装もさらっと描きすぎたかな、との反省もありますが
理想をいえばきりがなく、ここで色鉛筆を置こうと思います。

物語の登場人物は、読む人によってそれぞれイメージが違いますから、
ぜんぜん違うよ、と思う方もいると思います。ごめんなさい。
(だいたい描いた本人からして、これちょっと違うよね、と思うキャラあり。)

これまで裏話に取り上げてこなかったキャラクターの話なども、また少しずつ
していきたいと思っています。

レッツ・チャットを知っていますか?〜意思伝達装置のクラウドファウンディング2020年02月06日 12:11

車いすの天才科学者と呼ばれたホーキング博士は、21歳のときにALSを発症。
ほとんど身体の自由を失った晩年、インテルの技術者たちが博士のために開発した
意思伝達システムを、ほおの筋肉をわずかに動かすことで操作して
コミュニケーションを取っていました。
車いすのアームに取りつけた機械の、あの独特の声を覚えている方も多いでしょう。

コミュニケーションを助けるツールは日本にもいくつかあって、
脳幹出血で倒れた友だちは、こちらの「レッツ・チャット」を使っています。
最初に友だちが、レッツ・チャットを使って「ありがとう」といってくれたときは
本当に胸がいっぱいになりました。(なんて返事をしたか、覚えていないくらい。)
レッツ・チャット

そのレッツ・チャットが、昨年、製造元のパナソニックで生産打ち切りに…!
パソコンのソフトなど、ほかに代替品があるから、という理由でした。

でも、レッツ・チャットはワンアンドオンリー。
なぜって、単体で使うので、パソコンの知識がなくてもいいし、
パソコンと違って、フリーズもほとんどなく、とてもユーザーフレンドリー。
指でもいい。頭でもいい。どこか身体のいっかしょが動けば、
思いが伝えられる装置です。
宮ぷー(友だちのニックネーム)は、いまは指先が動くようになり、
指で操作しています。

外出するときは車いすにつけ、家ではベッドに取りつけて、テレビのリモコンを
動かして大相撲やサッカー中継を観戦したり、iPadと連携させて、
アマゾンプライムで映画を見たり、ラインでおしゃべりしたりしています。

国内には、ALSや交通事故、脳幹出血などで、意思の疎通が困難とされる
重度の障がい者が10万人以上いるそうです。
症状が重く、意識がないと思われてしまう場合もありますが、実際には、
意識がある場合もあるといいます。
いわゆる、閉じ込め症候群(ロックトインシンドローム)です。

宮ぷーも、最初はそうでした。
余命3時間と宣告されたのに、妹さんと、同僚で友だちのかっこちゃんが、
絶対に聞こえていると、声をかけ続け
絶対に大丈夫と信じて、懸命にリハビリをしたのです。
やがて宮ぷーは、瞬きでこたえられるようになり、その後、
レッツ・チャットに出会い、たくさん話せるようになっていきます。

思いを伝えられる、というのは、とても大きなことだと思います。
生きよう、リハビリ頑張ろうという気力も、引き出すのではないでしょうか。
宮ぷーは、ついに退院し、訪問看護師さんやデイサービス、
ショートステイを利用して、自宅で一人暮らしをするまでに回復したのです。

生産を続けてほしいというたくさんの声がよせられ、
開発者の松尾さんは、ぜひ、そんな方たちの助けになりたいと、
新たな会社を立ち上げて、レッツ・チャットにかわる装置を作ろうと決心。
現在、クラウドファウンディングで資金を募っています。
意思伝達装置を必要とする方が身近にいる方、松尾さんを応援しようと思う方、
ぜひこちらをご覧くださいね。


〈サラファーンの星〉の第四部『星水晶の歌』では、戦場で負傷した黒のジョーが
昏睡状態になります。
意識はあるのですが、身体はまったく動かず、目を開けることも話すことも
できない、典型的な閉じ込め症候群。
医師には半ば見放され、看護師たちも傷跡だらけの身体を見て
「ろくな素性じゃないわね」などと好き勝手言うのに、追い払うこともできません。
けれど、ひとりだけ、やさしく話しかけて、手当をしてくれる看護師がいます。
その声に、彼女の存在に、ジョーはどれほど支えられたことかと思います。
そんなシーンを書きながら、宮ぷーのことを考えていました。

レッツ・チャットがパワーアップして新たな姿で登場し、
ALSなどで思いを伝えるのが難しい方、閉じ込め症候群の方など、
たくさんの人たちを支えて希望の光となるよう願って、心から応援しています!

初雪!2020年02月10日 20:57


2020年初雪

実家の岐阜でようやく初雪! 観測史上最も遅い初雪だそうです。
子どものころは、冬になると何度も雪が降ったし、大雪もめずらしくありませんでした。

↓こちらは、数年前の雪景色。年に一度はこれくらい降っていました。

雪の庭

ここ数年、少なくなりましたが、それでも、12月には降っていました。
この冬は降らないかもしれないと心配していましたが、ようやく初雪です。
伊吹山も、白くなりました。

うれしくなって外に出て、セーターに舞い落ちる雪の結晶をいくつも見ました。
雪の結晶は、本当にきれいです。どれも六角形だけど、どれひとつとして同じ形は
ありません。自然が生み出す模様の美しさに、ただ見とれてしまいます。

サラファーンの星では、雪は大切なエレメントのひとつ。
『石と星の夜』のプロローグでは、フィーンのヨルセイスが、初めて人の世界に
降り立った少年の日を回想します。

彼は9歳。幼子(おさなご)を腕に抱えて船から降り立ったとき、
空気は澄んで凛として、白い羽毛のようなものが、
空からはらはらと舞い降りていました。
初めて見る雪でした。フィーンの旧世界は暖かく、雪は降らなかったのです。

その雪のひとひらが、幼子のほおに落ち、雫となって真珠のようにすべり落ちます。
幼子は、やがて王妃になるのですが、そんな運命など少しも知らずに、
ヨルセイスの腕ですやすやと眠っているのでした。
戦争で故郷を失い、長い航海をへてたどりついた人の世界。
ヨルセイスは、湖や丘に降る雪を見つめ、美しいところだと思います……。

今日の雪は、ヨルセイスがそのとき見たような、羽毛のような大きな雪。
空を見上げると、あとからあとから降ってきて、白い世界に吸い込まれそうでした。

黒のジョー 神出鬼没の心やさしき盗賊2020年02月14日 14:46

黒づくめの盗賊、黒のジョーは、最初からはっきりしたイメージがありました。
黒髪に、強い意志を感じさせる濃い瞳。
孤独を友とし、身のこなしは野生の猫のようにしなやか。
仕事(?)は大胆で、卑劣な人間は容赦しないが、女性や子ども、弱い存在にはやさしく
魅力的な笑顔を見せる。そんなイメージです。
相関図を作ろうと決めたとき、ざっと描いてみたのが、こちらのラフスケッチ。

黒のジョー・ラフスケッチ

このイメージから、鉛筆でスケッチを描き起こし、水彩色鉛筆で、まず顔に
色を入れてみたのが下のスケッチ。
(もう少し野性的な感じにしたかったのですが、素人にはハードルが高かった…。)
このあと、髪の色とシャツの黒をぬって、スケッチを完成させ、
デザイナーの畠山さんにスキャンしたデータを送り、CGにしてもらったのが
公式サイトのキャラクターページのイラストです。

黒のジョー・スケッチ

盗賊の親方に拾われて育てられた孤児のジョーは、サラファーンの星四部作の中で、
もっとも過酷でドラマチックな人生を生きるキャラクターのひとり。

賞金のかかったお尋ね者ですが、『星の羅針盤』で暗示されるように、
前世では、愛と平和をうたった詩人で、
戦争を止めようとして、反逆罪で処刑されました。
そのときに、ずっとよりそっていたのが黒猫のアイラ。
時を超えて、黒のジョーとしての彼のことも、助けに現れます。

『星の羅針盤』では、もうひとつ。
ジョーは、フォーディルの村で二歳のときに疾走した少年だったことを
ほのめかしていますが、ジョー自身は、なかなかそれを思い出しません。
それでも、命の危機に陥って、二度昏睡状態になったときには、
それぞれ、その通常とは違う意識の中で、幼い頃の出来事を思い出すのです。

人生には、幸と不幸が、不運と幸運が交錯するときがあります。
二度も瀕死の重傷を負う、という不幸な出来事も、ある意味、ジョーに
自分が何者なのかを知らせる、大切な機会だったと言えるかもしれません。

ジョーは、最初から強い自己主張をしてきたので、とても描きやすかったです。
男爵の馬車を襲うシーンから、3人の仲間も含め、ありありと映像が
浮かびました。
男爵から邪険に扱われている男爵夫人には、とても優しい紳士のジョー。
若く美しい男爵夫人が、ジョーが立ち去る際、思わずキスしてしまうのも、
ごく自然な成り行きでした。

「あなた、黒のジョーね?」
「それは本当の名じゃない」
「じゃあ、本当の名前は?」
「あいにく、覚えてないな」
男爵夫人と交わすその会話は、のちに別の場面で何度か登場する
とても便利なセリフとなりました。
(そのときには、後で出てくるとは思わなかったのですけれど。)

女性には全般的に優しいのですが、恋人のいないジョー。
描きながら、誰と恋に落ちるのかなと思っていました。
あの子かな、と思った予想は見事に外れ、ここでもジョーは自己主張をして、
わたしにとっては意外な女性と恋に落ちました。
その恋の行方がどうなるのか、最後の方までわからなかったので、
本人たちの声に耳を澄ましながら(というのは、相手の女性も、かなり強い
主張をするキャラクターで、作者の言うことにちっとも耳を貸さない)
ちょっとドキドキしながら描いていました。

ジョーの話は、たくさんあるので、またいつか続きをしますね。

『星の羅針盤』〜つかのまの平和な日々2020年02月17日 17:34


『星の羅針盤』書影

〈サラファーンの星〉は、第一部から第四部まででひとつの物語ですが、
四部とも、それぞれ違う雰囲気の本になっています。

第一部『星の羅針盤』は、戦火を逃れてきたリーヴの一家が、最果ての国の
伯父の家、サンザシ館で過ごすつかの間の平和なひとときを描いています。

村外れの森に住むフィーンの娘との出会いと交流という、非日常の出来事や、
伯父の過去には秘密があることが暗示され、
のちに戦争が影を落とし、戦乱の時代が来ることを、ほのめかしながらも
全体としては、まだ毎日がきらきらと輝いている世界です。

第二部『石と星の夜』はスパイたちが暗躍する陰謀の物語、
第三部『盗賊と星の雫』は地下牢に囚われた盗賊の目を通して、サラファーンの星
(フィーンのダイヤモンド)にまつわる過去の物語、
第四部『星水晶の歌』は、滅びゆく世界を背景にした戦争や冒険ものという要素が
強いでしょうか。
世界を救おうと奔走する者たちと、それをはばむ力との最後の戦いの物語です。

今日はまず、『星の羅針盤』の舞台裏のお話を。

冒頭の書影は、文庫版のものです。
本の見本ができてくるときには、ジャケットや帯がどんなだろうと、
いつもドキドキします。
『星の羅針盤』は、単行本とは変えますと言われていましたが、
見本が届いたとき、単行本とものすごく違うのでびっくりしました。
ダイヤモンドの剣も、かなり違います。わたし自身のイメージは、単行本の
細身でシンプルなイメージが近いのですが、
文庫版のがきれいだと言ってくれる人もいたり、リーヴのイメージもそれぞれで、
百人いれば百通りだなぁと感じ入ります。

帯のキャッチコピーは、「預言の英雄はどこに」でしたが、
こちらは、あ、ちょっと違うかな、と思いました。
プロローグで、預言者が、さだめられた英雄が誰かよりも、
われわれがいかにあるかが大切だと語ったように、
この四部作は、剣の探索に行く者だけではなく、ひとりひとりが成すべきことをする
群像劇としての物語なので、そのことがわかるコピーを、わたし自身が考えて、
提案してみればよかったのかなと思ったりもします。
ファンタジーは、やはり、英雄物語、というイメージが強いのかもしれません。

この第一部。30年前に草案を書いたときは、黒のジョーとその一味が
男爵の馬車を襲うシーンはありませんでした。
また、ランドリアが暗殺事件にかかわったハンターを追い詰めるシーンも
ありませんでした。
ただ、当時原稿を読んでくれた理論社の岸井さんから、事件が少なすぎるとアドバイス
してくれて、第二部に入れる予定だったそれらのシーンを、前倒ししたのです。
それでもまだ退屈、という意見もあったのですが、
あまり最初から登場人物を多くしたくなかったので、そこは難しいところでした。

『星の羅針盤』には、さり気ないシーンにたくさんの伏線を張り巡らせました。
一度読んだだけではわからないように。けれども、ちゃんと描いておくことで、
「フェア」になるように。
たとえば、ダン伯父さんとジョサ、ハーシュの異母兄弟の秘密は、第二章から入れて、
全般にわたってちりばめました。
注意深く読めば、あれ?もしかして、と感じられるように。
行方不明のトゥーリーの話も、第二章に早々に登場させました。

わたしは、子どもの頃から、気に入った物語を何度も繰り返し読むくせがあります。
二度、三度読んでも、そのたびに新しくなにかを発見できる物語も好きなんです。
もちろん、この四部作を二度読まれる方はめったにいないでしょうけれど
(こんな長い物語、一度読むだけでも時間がかかって大変ですよね!)、
もしもぱらぱらと読み返したとき、あ、ここにこんなことが書いてある、などと
楽しんでいただけたらいいなと思っています。

『石と星の夜』~スパイたちの悲しみ2020年02月19日 17:14


『石と星の夜』イラスト鈴木康士 デザイン吉永和哉+WONDER WORKZ。 

今日は、『石と星の夜』の裏話を。

四部作はそれぞれ個性をもたせたかったのですが、
この第二巻は、中でも、少し変わり種かもしれません。

夏の終りから秋にかけて、ほんの二か月弱のあいだの物語で、
情報機関〈イリュリア〉内部の裏切り者を追う諜報員たちの話と、
サンザシ館の人々の話が交互に語られる構成になっています。

ロンドロンドが、リーヴェイン王室の諜報員になることで、
サンザシ館も、諜報の世界と間接的につながりを持つことになりますが、
ロンドロンドの表向きの仕事は通信員。
彼が極秘の任務についていることは、誰も気がついていません。

タイトル『石と星の夜』は、世界を滅ぼしかねない兵器が
生まれるきっかけとなった、星降る冬の夜をさしています。
ロンドロンドの同僚が、彼にそのことを話すセリフ

「すべてはある冬の夜ーー〈石と星の夜〉に始まった」

からきています。
(本の帯も、ここからほとんどそのままとってもらえて嬉しかったです。)

20代の後半、スパイものの小説をけっこう読んだ時期があって
中でも好きだったのが、ジョン・ル・カレの作品でした。
「寒い国から帰ってきたスパイ」を読んで、
その静謐で、冷徹で、悲哀に満ちたスパイたちの世界に、衝撃を受けました。
国や理念、組織のために、それぞれ、自分を犠牲にせざるをえない宿命や
それでも、愛するものを守ろうとする思い。その葛藤……。
読み終えて、何日も、心から離れませんでした。

ル・カレは、MI6(英国秘密情報部)の一員で、その経験をもとにスパイ小説を
たくさん書いています。
007もMI6という設定ですよね!(こちらの作者、イアン・フレミングは
英国海軍情報部に所属していました。)

何人かのスパイものを読んだ中で、ル・カレがダントツに好きでした。
どれもスパイの悲哀を描いて、深い余韻を残す物語。
(ル・カレの作品をすべて読んでいるわけではないし、
あまり偉そうなことは言えませんが。)

映画化されたル・カレ作品も多いです。
『ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ』は、主演のひとりが
BBCの『シャーロック』でシャーロックを演じたB・カンバーバッチでした。
邦題は『裏切りのサーカス』。
『ロシア・ハウス』と『ナイロビの蜂』も心に残っています。

『石と星の夜』は、ル・カレにオマージュを捧げる、という思いで、
せいいっぱいの敬意を込めて書きました。

物語に登場する情報機関の中で、中心となるのは、
アトーリス王室情報部〈イリュリア〉。
王に忠誠を誓った精鋭たちで構成され、700年の歴史を持つ情報機関です。

ヴェルゼン長官は、思い切り渋くてかっこいいボスを想像しながら描きました。
暗殺事件の特捜班を率いるチーフも、長身で美男のリーダー。
愛する妻子を失った暗い過去を持つ、悲しい瞳が印象的な男です。
そのほか、ステラン、パーセロー、ミコルトが中心メンバーで、
それぞれのイメージが浮かんだあとは、この〈イリュリア)の男たちは、
作者孝行者というか、手がかからないキャラで
どんどん動いて物語を導いてくれました。

ただひとつ困ったのが、ものすごく長くなったこと。
勝手に動き回るものだから、そういう事態も起こります。

編集の小林さんからは、長くなると全体のバランスが悪くなるし、
本の値段も上がってしまうからと、短くするようアドバイスを受けました。
最初、字を小さくして1ページの行数を増やす、という方法を勧められたのですが
(それだけでは、もちろん、不十分なのですけれど、まずはそうしてみたら?と)
一巻でも字が小さいと感じていたのに、あれ以上小さくなったら、
本当に読みづらくなってしまいます。
それだけは避けたいと思いました。

ただ、膨大な量をカットしなければなりません。主に次の2つの方法で乗り切りました。

1:情景描写をカット。
まるまるカットする場合もあれば、行単位、あるいは、単語単位でカットする場合あり。

2:陰謀の伏線など必要な部分を最低限残し、なくてもわかるシーンはすべてカット。
たとえば、パーセローがラシルを探すシーンなどは、大幅にカットしました。
彼、実際は、ある村で若い女性に後ろから棍棒で殴られて気を失ったりなど
もっと苦労していたんです。
同じくパーセローの波止場での聞き込みシーンもカット。
タリス港名物、焼きサバのサンドイッチを、屋台で買って食べるところがあって、
焼きサバ寿司が好きなわたしとしては、入れたかったのでした。

そうして、初稿の三分の一近くをカットして、ようやく2巻が完成したのでした。
膨大な量でしたので、本当に大変でしたが、今は短くしてよかったと思っています。
(実は、4巻ではもっと苦労をしてカットすることになるのですが、当時のわたしが
そのことを知らなかったのは、幸いでした!)

2巻では一つの事件はそれなりの決着を見せつつも、さらなる謎を残すことになり、
悲しい宿命を背負ったスパイたちの物語は、続いていきます。

男はつらいよ お帰り寅さん〜渥美清さんの思い出2020年02月23日 16:17

こどものころ、お正月には必ず家族で映画を見に行きました。
寅さんと007。
どちらも、お正月には必ず新作が公開される人気映画でした。
いつもはまったく笑わない父が、寅さんを観ると大笑いしていましたっけ。

今年のお正月、久しぶりに寅さんの「新作」を母と観に行って、そんなことを
思い出していました。

東京で働いていたとき、渥美清さんを見かけたことも、思い出しました。
たしか、大学を出てほどないころ。
残業のあと、同期の友だちと三人で、会社から歩いて5分の帝国ホテルに寄って
一階のレストランで食事をしていたときのことです。
(映画大好きなわたしは、いつも仕事のあと日比谷の映画館に行くのに
ホテルの中を通って近道していたので、時々、お礼(お詫び?)に、
安月給でも手が届く一階のカジュアルレストランで、パンケーキなどを食べていたのです。)
隣の席に渥美さんが入ってきました。

「あ、寅さん」友だちが、小さな声でいいました。
渥美さんは、ちらっとこちらを見て、わたしたちは、思わず黙礼し、
渥美さんも、そっと黙礼を返してくれて、それから椅子に座りました。
シャーロック・ホームズみたいな鳥打帽をかぶって、さりげなくおしゃれな
スーツ姿でした。
小学校高学年ぐらいの男の子を連れています。
甥御さんかな、と思いました。
(寅さんに甥の満男が出てくるから、勝手にそう思ったのですが。)

映画の寅さんと全然違って、本当に物静かで紳士でした。男の子もそうでした。
ふたりのあいだには温かな空気が流れていて、なんだか素敵でした。
渥美さんは、人間として、とても温かで、おだやかな方で、周りへの心配りも
細やかなんだろうなと感じました。

映画の中の寅さんは、ちょっとおっちょこちょいで、早とちりで、
常識はずれなところもあって、家族に迷惑をかけたりするけれど、
渥美さんはそんなことはなさそうです。
でも、寅さんは、困っている人がいると放っておけません(特に相手が美女ならば)。
本当に心の芯が温かいのです。
その温かさは、渥美清さんの人柄と重なっているのだと思いました。

「お帰り寅さん」の主人公は、甥の満男です。
作家として独り立ちしていますが、妻をなくして、娘と二人暮らし。
そんなとき、高校時代の恋人に再会して…。というお話です。

恋に仕事に悩む満男が思い出すのが、かつて、寅さんに
人間て、なんのために生きているのかなと問いかけたとき、寅さんが、
おまえ、難しいこと聞くなあといって少し考え、
こたえた言葉が、心にしみます。

「なんというかなあ、ああ、生まれてきてよかった。そう思うことが、
何べんかあるだろう? そのために人間、生きてんじゃねえのか」

「お帰り寅さん」も、とても心にしみる映画でした。

寅さんの主題歌も大好きで、わたしは、ふとした拍子によく歌います。
楽しいときや辛いとき、嬉しいときや悲しいとき、なんでもないときに。
(要は、いつでも。)
今回は、びっくりすることに、オープニングで桑田くんが歌っていましたね。
でも、一番好きな3番は、渥美清さんがエンドクレジットで歌って
締めています。

どうせおいらはヤクザな兄貴
わかっちゃいるんだ妹よ
いつかお前が喜ぶような 偉い兄貴になりたくて
奮闘努力の甲斐もなく 今日も涙の
今日も涙の陽が落ちる 陽が落ちる
(作詞 星野哲郎)

子どものころ、奮闘努力の「ふんとう」が「うんと」に聞こえて
ずっと「うんと〜努力の甲斐もなく」と歌っていました。
てっきり、たくさん努力しても、その甲斐がないんだなぁと思って。
奮闘努力だということは、大人になって知りました。

今日は父の命日。
ニュージーランドで大きな地震があった翌日のことで、肺炎での急逝でした。
知人がお参りに来てくれたり、お供えを送ってくれたり…。
もう9年になるのに、寅さんのように温かな人たちで、胸がいっぱいになります。
天皇誕生日でもありますが、
コロナウイルスによる新型肺炎の感染拡大の影響で、一般参賀が中止になりました。
感染拡大が収束して、ウイルスの流行が一日も早く終息しますように、
ワクチンができますよう、感染した方がしっかり回復され、
全快されますようにと祈っています。

『盗賊と星の雫』〜黒のジョーとジョサの秘密2020年02月25日 11:50


『盗賊と星の雫』書影

第3部『盗賊と星の雫』には、
ギルデアの地下牢に囚われた盗賊ジョーが、老人ガリウスから
〈サラファーンの星〉にまつわる伝説を聞き、
世界を救う鍵となるダイヤモンドのブレスレットを彼に託され、
地下牢を脱し、危険な旅に出る……
という話が出てきますが、4部作のアウトラインを考えた当初は、
ジョーのシーンはそれほど多くなるはずではありませんでした。

もちろん、サラファーンの星のかけらのブレスレット〈星の雫〉を
ジョーが運ぶ、というプロットは、最初からありましたし、
それは物語の核を成す重要な要素ですが、ジョーのシーンは要所要所に
出てくるだけだったのです。

ところが、第1部が世に出たとき、
「短編を読むとしたら、どの登場人物の話がいいですか?」
というアンケートを、友人や知人に片っ端からしたところ
ジョーはほかをぐんと引き離し、ダントツの1位でした。
第1部では、ジョーは本当に少ししか出てきません。
なので、とても意外でした。

短編を書くのはいつになるかわからないし、それならいっそ、
この長編の中で、ジョーの出番を増やそうということになりました。
その時点ではすでに第2部はほぼ仕上がっていたので、
第3部から、ということで。
タイトルも、当初は『アイラの歌』でしたが、ジョーの出番が増えた
ことで、『盗賊と星の雫』に変更しました。

ところで、ジョーがガリウスから聞く、過去の伝説の物語は、
初稿では、いまの倍の長さがありました。
編集の小林さんは、『石と星の夜』に続いて、大幅にカットするよう
アドバイスしてきました。
伝説や過去の話があまり多いと、たしかに、間延びしてしまいます。
それはあとで別の物語にすればいいのでは?ということになり、
今回も、思い切ってたくさんカットしました。

『盗賊と星の雫』では、ジョーの物語と並行して、音楽家の道を
ひた走るジョサの物語が語られ、彼の秘密が明かされていきます。
これまで少しずつヒントを入れてきたので、読んでいて気がついた人も
いるかもしれません。
ジョサが体験する悲劇とともなって、
明るく脳天気な少年の裏の顔が見えてくるという展開です。
なにごとも、なにものも、見かけとは違う。
しばしばそう感じることがありますが
ジョサという少年には、そのことが、よくあてはまると思います。

第3部であたらに登場する、天上の声を持つ少女チェチェは、
物語を書き始めたときには、影も形もありませんでした。
彼女が初めて姿を見せたのは、第2部を書いているときで、
星降る野外歌劇場で、ジョサのフレシートに合わせて幼い少女がソロで
歌うシーンが浮かびました。
彼女が歌う『麗しのローレア』はメロディもあるので、歌声も聞こえるようでした。

ちょっとおしゃまで、ジョサのことを大好きな少女。
青灰色の澄んだ瞳。両親は楽団の音楽家。
生まれたときからみんなに愛されて育ったんだな、とわかる女の子。
そんな少女はきっと愛らしい名前だろうと思って、チェチェと名づけました。

この第3部で、人生の大きな転換期を迎えるステランとマリアのことや、
ジョーとガリウスに関しても、まだいろいろ書きたいことがあるのですが、
だんだん目が限界になってきました。
(ここ数年、パソコンを見ていると目がとてもつらくなってきます。やれやれ。)
また別の機会に…。