ダイロス〜2000年の時をこえて2019年02月09日 18:08

ダイロス。聖なるダイヤモンド、サラファーンの星で造った魔剣によって、不死身の人間を生みだした男。

2000年の時をへて生まれかわった彼は、『ユリディケ』の中ではある国の軍人として登場します。名はグル・バダ。年は40歳。


いつだったか、長い中断のあと〈サラファーンの星〉四部作の執筆に戻ったとき、まずは『ユリディケ』を読み返し、グル・バダのセリフに衝撃を受けました。


「……わしは一度命を落とし……」


えええ〜っ! わし?! 40でしょ、40! なんとじじ臭い言葉。「わたし」だよね?

思えば、『ユリディケ』を書いたとき、わたしはまだ20代。40歳の男性は老人だったのかも? ふたりの編集者も、わたしと同い年で、彼女たちもそれに関してはなにもいわなかったので、疑問に思わなかったに違いありません。


改稿版『ユリディケ』は、「わたし」でいきます!

名前の表記もグル・バダからグルバダに変更しました。彼が率いる軍も、ドロ・テ軍からドロテ軍に。発表当時から、名前がややこしくて覚えられない!というご意見をいくつもいただいており、かといって、昔のヴァージョンを読んでくださった方が戸惑ってもいけないし、ということで、マイナーチェンジで。


さて。サラファーンの本格的な執筆に戻ると、それまで知らなかったダイロスの過去が、頭の中で次々と繰り広げられていきました。

絶世の美男。少年時代の心の影。なにかと兄と比べる父王への複雑な思い。

それは、母の病に際し、父がフィーンに助けを求めなかったことで、いっそう屈折したものとなります。

そして、最愛の母の死によって、年をとることも病に冒されることもないフィーンへの羨望も深まるのです。


『ユリディケ』を書いていたときにはわからなかった、そうした新たな「事実」の中でも、ランドリアと従兄弟同士で親しかった、ということは、一番の発見でした。となると、ルシタナとも血縁だったことになります。

そんなダイロスの、さらに前の過去生もわかってきました。そして、なぜそれほどまでにフィーンのダイヤモンドに固執するのかも。


ダイロスはいわゆる「悪役」です。けれども、ただ悪だけの存在とは思えませんでした。その心には、やさしさも清らかさもあり、誰よりも愛を求めていたのではないか。そんな気がしています。


どのキャラクターにもそれぞれの思いや過去があり、彼らに寄り添うとき、わたしはとても愛おしさを覚えます。

嫌な奴も、小さな役も、同じように。

というか、なぜか脇役の方が、その人のことを深く知りたくなって、つい人生年表まで作ってしまうこともあります。もちろん、あまり共感できない人物もいるけれど、それでもどこか愛おしくて、見守ってしまうのです。


キャラクターたちはとてもおしゃべりで、勝手に動き回るので、わたしがすることといえば、よく耳を澄まし、彼らの動きを追うことです。

もしも裏話を聞きたいなというキャラがいたら、どうぞコメント欄でお知らせくださいね。

(スパム防止のクイズが設定してあります。面倒でごめんなさい。)

天使の舞2019年02月11日 17:30

前にも書きましたが、わたしはフィギュアスケートの大ファン。シーズン中はいつもそわそわします。
四大陸選手権は、日本の男女エースが負傷していてドキドキしました。

ところが、ふたをあけてみれば、どちらも優勝! なんという精神力、集中力でしょう。

宇野昌磨くんは地元名古屋の出身で、ジュニア時代から知っているし、魂のこもった演技には感無量でした。その世界最高得点の直後に演じたキーガンくんのチャップリンも、ピョンチャンオリンピックを彷彿させる会心の演技。

田中刑事くんの久々のダイナミックかつ繊細な演技にも心揺さぶられました。やったね! こうでなくちゃ!


友野くんのリバーダンスや花織ちゃんのピアノレッスンも大好きな演目です。ふたりの涙にもらい泣きしそうでしたが、今回の経験を糧に、きっとさらに成長していくことでしょう。


そして、紀平梨花ちゃんのビューティフル・ストーム。地球の誕生を描いた物語、本当にダイナミックで美しい嵐。インタビューのまだあどけなさの残る表情とのギャップが楽しいです。怪我が早く治りますように!


それから、三原舞依ちゃんのフリー。ガブリエルのオーボエの美しい曲に乗せた天使のような舞には、本当に心を打たれました。

なんて愛に満ちたやわらかな表情で、なんて純粋に、なんて清らかに舞うのでしょう。観る人を幸せにする、みんなを笑顔にする、どんな頑なな心をもとかす、そんなスケーター。(いま書いていて、ふとリーヴのことを思いました。リーヴも、純粋に心から祈ることのできる人。彼女のスケートは、そんなリーヴの心に通じる気がします。)


彼女は若年性特発性関節炎という難病を抱えていて、まったく滑れない時期もあったのですよね。痛みと悲しみで眠れない夜は数え切れないほどあったに違いありません。それを乗り越えリンクに復帰した、その努力とあきらめない心。

祈りのような美しい舞の裏に、その強さがあるからこそ、これほど見る者の胸を打つのでしょう。

ショート8位からの見事な表彰台。本当によかったです。

一昨日は、金沢に住む大切な友だちの誕生日でもあり、いっそううれしくなりました。


その友だちも、飛びきりのファイターです。

10年前、脳幹出血で倒れ、あと3時間の命といわれたのに、いまでは本人の強い希望で、自宅でひとり暮らしをしながら、妹さんや友だち、訪問看護師さんたちに支えられ、デイサービスやショートステイに通っています。


まだ話すことや口から食べること、起き上がること、身体全体を動かすことはできませんが、毎日厳しいリハビリを続けながら、少し動かせる指先を使って、レッツチャットというコミュニケーション補助エイドで、意思の伝達をしています。

倒れる前は養護学校の先生をしていて、生徒たちからついたニックネームが「宮ぷー」(くまのプーさんからきています♡)。

お誕生日のお祝いをメールで送ったら、ひらがなで丁寧に綴ったうれしい返事が届きました。指を頑張って動かし、一文字一文字を打つのが、どれほど大変かと思うと、胸がいっぱいになります。

宮ぷー、あらためて、お誕生日おめでとう! 宮ぷーの夢がひとつひとつ叶いますように!


さて。フィギュアスケートの世界選手権は、今年は日本開催。楽しみです。

はやぶさ2と葡萄園の〈隼〉2019年02月24日 16:24

昨日は、朝起きでドキドキ。はやぶさ2どうなったかなぁと、

テレビをつけてまたドキドキ。

やがて、無事、小惑星りゅうぐう着陸に成功したというニュースが!


初代はやぶさの劇的な帰還から9年。

「本日、人類の手が新しい小さな星に届きました」

プロジェクトマネージャーの言葉に、胸がいっぱいになります。


着陸予定地が、直径100メートルから急遽6メートルになっても

一丸となって乗り切った、素晴らしいチームワーク。

訓練をしつこいくらいして、しつこいくらい観測をしてきた、

そのしつこさが実ったとのこと。


生命はどこからきたのか? 壮大な謎に迫るのは、小さな小さな探査機。

広い宇宙空間でひとりぼっちでミッションをこなす、はやぶさ2の孤独な旅……。

無事に還ってきてくれることを祈りつつ、3億4千キロの彼方に思いを馳せます。


ところで、ハヤブサ(隼)という鳥は、小さいけれど、超高速で飛ぶそうです。

急降下の速度は時速400キロ近いとか。

その姿もほれぼれするほど美しいです。


サラファーンの物語の終盤に、主人公たちを助ける重要な脇役が登場します。

葡萄園の主(あるじ)の右腕で、無口だけれど、一本筋の通った若者。

裏社会に通じ、隣国のレジスタンスにも、物資を流しています。

彼の愛称は〈隼〉。顔にハヤブサの入れ墨があります。


〈隼〉は、わたしの頭の中に、ある日ふらりと現れて動き始めました。

(なので、はやぶさ2を見守るようにかなりドキドキしました。)

入れ墨とともに、その名が浮かんだのは、勇猛果敢なハヤブサのイメージだけでなく、

9年前の初代はやぶさの勇姿が心に残っていたからかもしれません。

サラファーンの星〜本のタイトルが決まるまで2019年02月26日 13:11

〈サラファーンの星〉第Ⅰ部『星の羅針盤』のタイトルは、当初、シリーズタイトルが
〈早春のリーヴェイン〉、第Ⅰ部のタイトルは『最果ての国』でした。

さて。初稿のゲラもできあがり、いざ校正段階となったある日。
編集会議で、シリーズタイトルも第Ⅰ部のタイトルも「茫洋としている」と問題に。

ひっくり返りそうになりました!
もう出版目前だし、わたしの中では、長年そのタイトルできています。

後日譚の『ユリディケ』は冒険ものの色合いが強かったのですが、今回は、
滅びゆく世界を舞台に、家族の物語、市井の人びとの物語を伝えたいと思っていました。
特に、第Ⅰ部は、戦争の足音が迫る直前の、最果ての小さな国を舞台に、
やがて失われゆくささやかな日常や、初恋や友情、家族の愛と葛藤を描きたく、
『最果ての国』はそれにふさわしいタイトルに思えました。
早春のリーヴェインも、戦乱の世界と対極にある、美しい世界の象徴として、
また、第四部終盤のセリフと重ねて決めていたシリーズタイトルでした。

しかしながら、茫洋としている、という指摘は、確かに的を射ています。
さて、どうするか。

書いていると、譲れることと、譲れないことがあるのですが、
タイトルに関して、あらためて考えてみると、絶対に譲れない、というほど
強い思いはないと気がつきました。
そこで、考えに考えた末、シリーズタイトルとして

遙かな時の物語
最果ての国(第Ⅰ部のタイトルをこちらにまわす)

また、第Ⅰ部のタイトルとして、

星に祈りし者
薄葉月に生まれし者
星降月の旅人
サンザシ館の人びと・・・などの案を提出。

すると、編集の小林さんからこんな返答が。

「もうちょっとファンタジーらしいインパクトというか、フックのあるものを」

むむむ。
考えすぎると、人間、頭がぼーっとしてきます。
シリーズタイトルとして、適当にえいっとばかりに出したのが、
サラファーンの星でした。

第Ⅰ部のタイトルは、本文中の、フィーンの王のセリフ
「サラファーンの星を羅針盤にして」から『星の羅針盤』をピックアップ。
海外のファンタジーで『黄金の羅針盤』があるのが気になったのですが、
ファンタジーの好きな友人や、その友人たちに、いくつか候補を挙げて
どれがいいか聞いたところ、断トツの一番人気が『星の羅針盤』。

小林さんと出版社のOKもでて、ほっとしました。
あのとき協力してくださったみなさん、ありがとうございました!

第二部から第四部のタイトルも、『星水晶の歌』以外、すべて変わりましたが
候補であったタイトルは、いずれこの世界を舞台とした短編に、と思っています。

白樺亭のサラ〜暗殺事件の証人2019年02月28日 21:52


サラのイラスト原画(水彩色鉛筆)
脇役ではあっても、和平使節の暗殺事件の証人として、重要な役割を演じるのが、白樺亭で働く少女サラです。
昨日、サラファーンの星公式サイトのキャラクターページに、マリアとともに、サラのイラストを追加、公開しました。
上の絵は、わたしの水彩色鉛筆のスケッチ。これが、デザイナーの畠山さんの手にかかると、サイトに掲載の、雰囲気のあるCGに変身(*^_^*)
(相関図の小さな絵をクリックすると、大きなイラストと人物紹介がご覧いただけます。)

ちょうどこのブログで、だいふくさんから、キャラ裏話としてサラのリクエストをいただいていたので(だいふくさん、ありがとうございます!)今日はそのお話を。

戦争拡大のきっかけとなる暗殺事件の実行犯と、彼を手引きした精鋭部隊〈白き竜〉の隊長が密会していたのが、都の郊外にある宿屋、サラのいる白樺亭。
サラは、お忍びでやってきた客が、〈白き竜〉の隊長だと気づきます。初恋の人だったからです。しかし、彼の方では彼女のことを忘れていました……。
公式サイトの人物紹介では、そんな彼女の切ない想いがあらわれたセリフ
「あの人は少年みたいな目をしていました。純粋で、きらきら輝く目を……」
を選んでみました。

やがて事件が起こり、サラは、隊長が暗殺の実行犯と密会したことを証言する立場に。
そして、事件の聞き込みに来た〈イリュリア〉の諜報員パーセローは、サラに一目ぼれしてしまいます。
はたしてパーセローの恋は実るのか? サラは、どんな選択をするのか?
その行方は、まったくわからなくて、最後までハラハラしました。

サラは、義父の虐待を受け、心に傷を負う孤独な少女でもあります。
そんな彼女には、愛犬のウィスパーが、いつもそっと寄り添っていますが、まだら模様のあるこの猟犬の姿が浮かんだとき、ふと、この犬も前の飼い主から虐待を受けていたのかな、と思いました。
また、サラに恋するパーセローは、きっと犬が苦手なんだろうな、という気がしました。
気の毒ですよね。恋した彼女が、犬が好きなのに、自分は苦手だなんて。わたしだったら、いやだなぁ。なのに、どうしてそんなふうに浮かんじゃうんでしょう。ごめんね、パーセロー。

サラは書きながら次第にわかってくるタイプのキャラクターで、のちに、パーセローの相棒ステランや、その妻マリアとも関わってきますが、最初そんなことは全然わかりませんでした。
ましてや、黒のジョーまで、彼女のことを耳にするようになろうとは。

それでも、サラのことは、とても信頼の置けるキャラクターだと感じていました。
信頼が置ける、とは、放っておくと、自然と物語を導いてくれる、という意味です。
サラはそんな頼れるキャラのひとりです。ありがとう、サラ。