『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』主演二人の絶妙なケミストリー ― 2019年11月12日 21:03
世界で大ヒットした映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が、
間もなく、新たなシーンを加えた10分拡大版で帰ってきます。
11月15日(金)から28日(木)までの二週間限定上映です。
それにはどんなシーンが追加されるかわからないのですが、
ここで先日観た通常版の紹介を・・・。
舞台は1969年のハリウッド。主人公は二人の男。
ディカプリオ演じる、ちょっと落ち目のテレビ俳優リック。
黄金時代のエネルギッシュでポップなハリウッドで、
映画俳優として新たなキャリアを開こうと奮闘中。
かたや、ブラッド・ピット演じる、リックのスタントマン、クリフ。
リックが個人的に雇っていて、運転手兼雑用係。テレビのアンテナが
壊れれば、ひょいと屋根に上がって直すのもお手のもの。
ハリウッドの高台にあるリックの邸宅の隣に『ローズマリーの赤ちゃん』で
一躍名を馳せた新進気鋭の監督ロマン・ポランスキーと、
その新妻で女優のシャロン・テートが越してきて、物語は動きだします。
そして、観客もドキドキしはじめる仕掛けになっています。
なぜなら、この1969年の8月9日、身重だったシャロン・テートは
その新居で、友人とともに、狂信的カルト集団に惨殺されたのですから。
当時、わたしは9歳。シャロン・テート事件として、
日本でもセンセーショナルに報道されました。
大人にとってもそうだったでしょうが、なぜそんな残酷なことをする人がいるのか、
事件は、子どものわたしにとって、夜も眠れなくなるくらい衝撃的でした。
タランティーノ監督にとっても、その事件はずっと心にあったのでしょう。
この作品を見ると、それがよくわかります。
「ラスト13分。タランティーノがハリウッドの闇に奇跡を起こす」と
リーフレットにあるので、最初からちょっとネタバレという感じですが、
そこは狙ってそうしているのでしょう。
この作品のポイントは、クライマックスとなるその運命の日に何が起こるか
ということと、その鍵を握るリックとクリフーー
ディカプリオとブラピのケミストリーの絶妙さにあります。
この二人が、なんともいい味のコンビに仕上がっていて、
どちらも肩の力の抜けた演技で楽しませてくれました。
リックが8歳の女優役の少女と話すシーンとか、
誰にでも優しいクリフが、がつんと言うべき相手には、
がつんと言う(というか、がつんと殴る)シーンとか、
それぞれのシーンも、見応えたっぷりです。
『大脱走』のオーディションが出てきたり、
あの『ゴッド・ファーザー』のアル・パチーノが、さすがの存在感で登場したり、
小さなお楽しみもたくさんありますが、
なんといっても、二人の男の(おしつけがましくない)友情がよかったです。
こういうバディもの、とても好きです。
クリフと愛犬ブランデーのコンビも、あなどれません。
(ブランデー、ぶさ可愛く、忠犬ぶりも半端じゃないんです。見終わったあと、
後ろの女の子が「あんな犬、ほしい〜」と叫んでいました。)
わたしも『ママはシングル』という小説で、ブランデーという名の犬を
登場させているので、なんだか嬉しくなりました。
そしてラスト。現実にはそうならなかったことを、わたしたちは知っているのだけど
せめて映画の中だけでも、ああ、よかったねと思えて、ちょっとほっとしたのでした。
『アド・アストラ』〜父を探す孤独な旅の果てに ― 2019年09月19日 14:53
Ⓒ 2019 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.
映画『アド・アストラ』の試写会に行ってきました。
舞台は近未来。主人公は、ブラッド・ピット演じる宇宙飛行士のロイ。
地球外知的生命の探索に向かって消息を絶った父を探すため、
遙かなる宇宙空間へと旅立つロイの、長く孤独な旅路を描いた壮大な物語です。
どんな任務も完璧にこなし、いかなる状況でも冷静で優秀なロイですが、
同じく宇宙飛行士だった父は、家庭を顧みることはなく、
母はそのために心を病み、ロイ自身も、深い孤独を抱えています。
彼は、伝説の宇宙飛行士である父が、実は生きており、
海王星で人類の脅威となる実験をしていると聞かされ、
その暴走を止めるという極秘の使命を帯びて、宇宙へ送り込まれるのですが、
父を探すミッションは、思わぬ危機の連続。
最後まで、何が起こるかわからない展開で、まるで自分が探索の旅に
出ているような錯覚にとらわれました。
冒頭の、国際宇宙ステーションから見る、息を呑むような地球。
月の基地や火星の基地も、宇宙の旅の途上のさまざまなトラブルも、
驚くほどリアルです。
宇宙が好きな人にとっては、もうそれだけでドキドキしっぱなしでしょう。
人類はどうあるべきか、科学のあり方、文明のあり方は、といったテーマを
深く追求し、父と子という個人の物語をも内包して、
台詞を最小限に抑えた静かな作品は、澄んだ水のように、心に染みます。
明日9月20日(金)から全国ロードショー公開。
『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』も、宇宙空間での主人公の孤独が
ひしひしと感じられましたが、『アド・アストラ』は、もともと人との関係が
うまく築けないというロイのキャラクターによって、その孤独はいっそう際立ちます。
言葉を失うほどの圧倒的な映像と、暗黒の中の限りない孤独を肌で感じるには、
ぜひ、大きなスクリーンでご覧くださいね。
数学で戦争を止めようとした男 ― 2019年09月14日 17:22
戦争と平和は、わたしにとって、生涯のテーマです。
ものごころつく前から、始終戦争の夢を見て、本当に怖かった。
ですので、誰に言われるでもなく、戦争について深く考えるようになりました。
サラファーンの星で、戦争や国家の暴走を止めようとする者たちを描いたのも
自然ななりゆきでした。
『アルキメデスの大戦』は、数学で戦争を止めようとした男の物語と聞いて
ぜひ観たいと思っていた作品。
時は1933年。
映画は、戦艦大和の建造に邁進する帝国海軍と、開戦を止めるべく、
その海軍に挑む若き数学者の、息詰まるような攻防を描いていきます。
戦争が起こることは、史実として知っていても、
なんとか止めようと奔走する主人公を、応援せずにはいられなくて
タイムリミットが迫るなか、手に汗握って観ていました。
映画の主人公は実在の人物ではありません。
けれど、当時、戦争を止めようとした人たちは数多くいたと思います。
そうした人々の、叶わなかった願い、平和への祈りもこめられた作品とも
いえるのではないでしょうか。
悲惨な戦争が起こってしまったという事実を前に、
ラストの主人公の表情は、観る者の心を激しく揺さぶります。
緊張感の中に哀しみの漂う音楽も、心に残りました。
わたしは数学は苦手なのですが、主人公の「数字は美しい」という言葉は、
わかるような気がします。
数式を描くところは、宇宙の神秘をあらわしているみたいで、わくわくしました。
(実在の天才数学者を描いた「ビューティフル・マインド」という映画も、
数式を描く映像が、とっても素敵なんです。)
演じる菅田将暉が、猛烈な勢いで黒板に書き殴っていくのですが、
エグゼクティブ・プロデューサーの話によると、
彼は本当に数学が得意で、全部そらで覚えたそうです。
本当にびっくり!
その彼と、最初は反発していた部下、柄本佑とのコンビがなんともユーモラス。
やがて悲劇が訪れることを、観る者すべてが知っているなか、
そこはひとつ、ほっとさせられるところです。こういうシーン大事ですよね!
戦争を知らない世代が増え、平気で戦争をしようと語る政治家が出てくる時代。
こうした作品は、いまとても大切に思えます。
戦争が落とす影〜マリアンヌ ― 2019年09月10日 17:38
『この世界の片隅に』に寄せて ― 2019年08月03日 18:41
今夜NHKで『この世界の片隅で』がオンエアされます。
舞台は広島。当時日本一の軍港だった呉の戦時中の風景が生き生きと描かれ、
主人公のすずたちが、大和と武蔵を望むシーンも登場します。
海軍に所属していた母方の伯父たちも呉にいたので、そんな呉の光景が、
とても胸に染みました。
伯父のひとりは、戦争で亡くなっていますが、よく母から話を聞いたものです。
映画では、戦時下のすずの日常が丁寧につづられるなか、そのかけがえのない世界が
戦火によって失われゆくさまと、それでも生きようとする人々の姿が、
決して声高ではなく、静かに描かれています。
サラファーンの星で描きたかったことのひとつも、なにげない日々の愛おしさでした。
第Ⅰ部の『星の羅針盤』は、田園地帯を舞台にした日々の営みが中心で、
事件が少なく退屈という声もありますが、実はその中に第2部以降の伏線がたくさん
張ってあります。
そしてなにより、戦争が生活を一変する前のなにげない日常を、その喜びと悲しみを、
失われる前の最後のきらめきを、つづっておきたかったのです。
失って初めて、大切だと気がつくものがあります。
平凡な暮らしも、当たり前だと思っていた地球環境も……。
『この世界の片隅に』の原作者こうの史代さんは、広島出身の方だそうです。
この美しい世界を、平和でおだやかな世界を、後の世代に残したいという思いは
人一倍強く持っておられるに違いありません。
広島に原爆が投下されてから、七十四回目の8月6日がやってきます。
長崎では、8月9日にその日を迎えます。
進められてきた軍縮が、軍拡へと時代を逆行しようとしているいま、
手を取りあうことよりも分断が叫ばれるようになったいま、
たくさんの人に観てほしい映画です。
主人公すずの声はのん。すべてを包むようなふわっとしたやさしい声も、
平和への祈りのようで、作品世界にとてもあっています。
『トールキン 旅のはじまり』 ― 2019年07月30日 18:13
トールキンの若き日々を描いた『トールキン 旅のはじまり』の試写会に行ってきました。
時は第一次世界大戦のただなか。ところはフランスの激戦地ソンム。
塹壕熱に倒れたトールキンの、少年時代の回想から、映画は幕を開けます。
緑あふれる森で、騎士になりきって友だちと遊ぶトールキン。
幼くして父を失ったあと、母と弟とともに、イングランドの田園地帯で過ごした日々。
のどかな田園風景は、ホビットの村そのもの!
大画面で見ると、物語の世界に吸いこまれそうでした。
フィクションもかなり織り交ぜてありますが、母親も失い、十二歳で孤児になったこと、
言語や文学への情熱、同じ下宿の少女エディスとの恋、かけがえのない仲間との出逢い、
第一次世界大戦への従軍など、トールキンの生涯を語る上で欠かせない出来事を
繊細なタッチでつづっています。
親友のジェフリーが戦地からトールキンに送った手紙は、
昨秋オックスフォードで開かれていたトールキンの回顧展で展示されていました。
明日をも知れぬ戦場。すべての思いを込めて、生と死のはざまでつづられた走り書きに、
胸がつまりました。
トールキンの作品には、そうした友の遺志も、きっと継がれているのです。
Ⓒ2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
ソンムの戦いで、この世の地獄を見たトールキン。
その壮絶な体験は、彼の人生にどれほどの影を落としたことでしょうか。
それでも、いえ、おそらくそれだからこそ、トールキンの作品を読むと、
世界は美しいという信念と、そうあってほしいという強い望みを感じます。
映画の中にも、美しい光景がりちりばめられています。
ことに、みずみずしい緑や、紅葉した木々の彩る映像は、樹木をこよなく愛した
トールキンの心を映しているようです。
オックスフォードのシーンで、トールキンが言語学の教授と歩く川沿いの道は、
アディソンズウォークと呼ばれ、トールキンが『ナルニア国物語』のCSルイスらと
よく歩いた散歩道。
わたしも友だちに案内されて歩きましたが、本当に素敵で、忘れがたい道です。
最愛の女性エディスが木々の中で踊るシーンも、幻想的な美しさに満ちています。
これは事実に基づいたシーンで、彼女が木々に囲まれて踊る姿に、
エルフの王女ルーシエンのインスピレーションを得たと、彼自身が後に述懐しています。
エディスも孤児でした。
孤独な子ども時代を過ごしたふたりが、お互いに長く寄り添えて、本当によかったです。
夫妻の墓石には、ルーシエンとベレン(彼女に恋をした人間)の名が刻まれています。
映画には、トールキン・ファンへのサービスもたっぷりつまっています。
冒頭の戦場で、トールキンを守るように従う部下の名はサム! 指輪を捨てる旅で主人公フロドに最後までついていった忠実な友サムと同じです。
また、少年時代に友だちと遊んでいて、大木のある道の下に身を隠すところは、
フロドたちが追っ手から身を隠すシーンを意識したのではないでしょうか。
エンドクレジットの背景では、ドラゴンや魔法使いなど、トールキンの物語世界が影絵となって映しだされるのも素敵です。
映画は8月30日(金)公開。公式サイトはこちらです。
↓↓
岐阜新聞映画部 ― 2019年07月25日 11:28
トールキンの伝記映画 オフィシャルトレイラー ― 2019年05月09日 17:03
ブログに載せる方法が、やっとわかりました)。
日本公開は8月。タイトルは「トールキン 旅のはじまり」だそうです。
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