『この世界の片隅に』に寄せて ― 2019年08月03日 18:41
今夜NHKで『この世界の片隅で』がオンエアされます。
舞台は広島。当時日本一の軍港だった呉の戦時中の風景が生き生きと描かれ、
主人公のすずたちが、大和と武蔵を望むシーンも登場します。
海軍に所属していた母方の伯父たちも呉にいたので、そんな呉の光景が、
とても胸に染みました。
伯父のひとりは、戦争で亡くなっていますが、よく母から話を聞いたものです。
映画では、戦時下のすずの日常が丁寧につづられるなか、そのかけがえのない世界が
戦火によって失われゆくさまと、それでも生きようとする人々の姿が、
決して声高ではなく、静かに描かれています。
サラファーンの星で描きたかったことのひとつも、なにげない日々の愛おしさでした。
第Ⅰ部の『星の羅針盤』は、田園地帯を舞台にした日々の営みが中心で、
事件が少なく退屈という声もありますが、実はその中に第2部以降の伏線がたくさん
張ってあります。
そしてなにより、戦争が生活を一変する前のなにげない日常を、その喜びと悲しみを、
失われる前の最後のきらめきを、つづっておきたかったのです。
失って初めて、大切だと気がつくものがあります。
平凡な暮らしも、当たり前だと思っていた地球環境も……。
『この世界の片隅に』の原作者こうの史代さんは、広島出身の方だそうです。
この美しい世界を、平和でおだやかな世界を、後の世代に残したいという思いは
人一倍強く持っておられるに違いありません。
広島に原爆が投下されてから、七十四回目の8月6日がやってきます。
長崎では、8月9日にその日を迎えます。
進められてきた軍縮が、軍拡へと時代を逆行しようとしているいま、
手を取りあうことよりも分断が叫ばれるようになったいま、
たくさんの人に観てほしい映画です。
主人公すずの声はのん。すべてを包むようなふわっとしたやさしい声も、
平和への祈りのようで、作品世界にとてもあっています。
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