岐阜新聞映画部 ― 2019年07月25日 11:28
希林さんの思い出 ― 2019年07月27日 17:29
『トールキン 旅のはじまり』 ― 2019年07月30日 18:13
トールキンの若き日々を描いた『トールキン 旅のはじまり』の試写会に行ってきました。
時は第一次世界大戦のただなか。ところはフランスの激戦地ソンム。
塹壕熱に倒れたトールキンの、少年時代の回想から、映画は幕を開けます。
緑あふれる森で、騎士になりきって友だちと遊ぶトールキン。
幼くして父を失ったあと、母と弟とともに、イングランドの田園地帯で過ごした日々。
のどかな田園風景は、ホビットの村そのもの!
大画面で見ると、物語の世界に吸いこまれそうでした。
フィクションもかなり織り交ぜてありますが、母親も失い、十二歳で孤児になったこと、
言語や文学への情熱、同じ下宿の少女エディスとの恋、かけがえのない仲間との出逢い、
第一次世界大戦への従軍など、トールキンの生涯を語る上で欠かせない出来事を
繊細なタッチでつづっています。
親友のジェフリーが戦地からトールキンに送った手紙は、
昨秋オックスフォードで開かれていたトールキンの回顧展で展示されていました。
明日をも知れぬ戦場。すべての思いを込めて、生と死のはざまでつづられた走り書きに、
胸がつまりました。
トールキンの作品には、そうした友の遺志も、きっと継がれているのです。
Ⓒ2019 Twentieth Century Fox Film Corporation
ソンムの戦いで、この世の地獄を見たトールキン。
その壮絶な体験は、彼の人生にどれほどの影を落としたことでしょうか。
それでも、いえ、おそらくそれだからこそ、トールキンの作品を読むと、
世界は美しいという信念と、そうあってほしいという強い望みを感じます。
映画の中にも、美しい光景がりちりばめられています。
ことに、みずみずしい緑や、紅葉した木々の彩る映像は、樹木をこよなく愛した
トールキンの心を映しているようです。
オックスフォードのシーンで、トールキンが言語学の教授と歩く川沿いの道は、
アディソンズウォークと呼ばれ、トールキンが『ナルニア国物語』のCSルイスらと
よく歩いた散歩道。
わたしも友だちに案内されて歩きましたが、本当に素敵で、忘れがたい道です。
最愛の女性エディスが木々の中で踊るシーンも、幻想的な美しさに満ちています。
これは事実に基づいたシーンで、彼女が木々に囲まれて踊る姿に、
エルフの王女ルーシエンのインスピレーションを得たと、彼自身が後に述懐しています。
エディスも孤児でした。
孤独な子ども時代を過ごしたふたりが、お互いに長く寄り添えて、本当によかったです。
夫妻の墓石には、ルーシエンとベレン(彼女に恋をした人間)の名が刻まれています。
映画には、トールキン・ファンへのサービスもたっぷりつまっています。
冒頭の戦場で、トールキンを守るように従う部下の名はサム! 指輪を捨てる旅で主人公フロドに最後までついていった忠実な友サムと同じです。
また、少年時代に友だちと遊んでいて、大木のある道の下に身を隠すところは、
フロドたちが追っ手から身を隠すシーンを意識したのではないでしょうか。
エンドクレジットの背景では、ドラゴンや魔法使いなど、トールキンの物語世界が影絵となって映しだされるのも素敵です。
映画は8月30日(金)公開。公式サイトはこちらです。
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