4月の終わりにメイを想う2019年04月28日 21:23


甲斐犬の血を引くメイphoto by Kumiko

甲斐犬の血を引くその子犬との出逢いは、ちょうどいまごろでした。
もう30年近く前になるでしょうか。4月の終わりにしては暑い日でした。

当時横浜の小さな街に住んでいたわたしは、駅前の本屋さんへの道を歩いていました。

車通りの激しい道を横切ったときのこと。

歩道で、通りかかる人たちにしっぽを振っている、人なつこい子犬を見かけました。

ちょっと狼みたいな風貌で、思わず心惹かれました。


本を買ってふたたびその道を通ると、先ほどの子犬が、歩道に倒れてぐったりしています。

目もうつろで、荒い息をしていました。暑かったからでしょうか。

病院に連れて行きたいけれど、動物病院がどこにあるかわかありません。

途方に暮れていたら、ひとりの女性が声をかけてきました。

「その犬、この三日間、ずっとここにいるのよ。ここで捨てられたんだと思うの」


彼女は、動物病院ならこの先で見たような気がするといいました。

そして、実は自分は犬は怖いんだけれど、わたしが抱いているなら、

一緒に行ってみない?といってくれたのです。

子犬といっても、けっこう大きく、抱いて歩き続けるのは無理そうです。わたしたちは

タクシーに乗りました。子犬はけっこう汚れているし、ちょっとにおったのですが、

運転手さんはいいよといって、走りながら動物病院を探してくれました。


獣医さんは、突然訪れたわたしたちに、とてもやさしかったです。

この犬は、甲斐犬の血を引いているねといいました。日本狼の血を引くという説もある、

甲斐の国の古い犬種だそうです。

子犬の体重は七キロ。推定、生後半年。もっと大きくなるだろうとのことでした。


わたしはの住んでいたマンションは、ペット禁止でした。獣医さんに、飼ってくれる人を

探すので、どうかこの子犬を助けてくださいとお願いすると、獣医さんはいいました。

「お嬢さん(当時はわたしも若かった)、捨て犬を助けようというあなたのやさしさに、

わたしもやさしさでこたえましょう。一晩無償で預かります。

なので、明日までに引き取ってくれる人をお捜しなさい」


お礼を言って、帰ろうとすると、ぐったりしていた子犬が、突然、診療台の上で

がばっと身を起こし、わたしのほうに来ようとしました。

また捨てられてしまうのかと思ったのかもしれません。

きっと誰か探すからね、といって帰りました。

友人や知り合いに片っ端から電話した末に、

東京の叔父が、いいよといってくれたときは、本当にうれしかったです。


翌日、叔父夫婦と従妹は、車で獣医さんのもとに迎えに行ってくれました。

従妹が入っていくと、子犬は、まるでこの人が新しい主事だとわかったかのように、

立ちあがってしっぽを振ったそうです。衰弱していただけだったようでした。


そうして、甲斐犬の血を引く子犬は、叔父一家の一員となりました。

従妹が洗ったら、水が真っ黒になり、汚れも匂いもなかなか取れなかったそうです。

叔父は、姪のわたしが拾ったことと、5月が目の前だったことから、

子犬をメイと名づけました。


従妹は、毎日二時間メイと散歩をして、食事も手作り、寝るときも一緒。

本当に可愛がってくれました。

甲斐犬は賢く、ひとりの主人に生涯忠誠を尽くすといわれているそうですが、

まさにその通りで、賢くて、従妹にとても忠実で、特別な絆で結ばれているようでした。


犬の一生は人間よりずっと短い。メイもそうでした。

でも、従妹とめぐり逢えて、本当に幸せな生涯だったと思います。

 写真は、従妹が撮影したメイです。従妹の家でくつろいでいるところです。


1999年、『ママはシングル』という現代物のコメディを発表したのですが、

その中に登場する、甲斐犬の血を引く犬、シャンペンとブランデーは、

メイのことを思って書きました。メイのほうがずっと賢いですけれど!

また、サラファーンの星全巻を通して登場する銀色狼には、

ちょっとメイのイメージが入っているんだろうな、と自分で思っています。

ユリディケの歌〜ふたつの物語を結ぶ詩(うた)2019年04月30日 10:21

『ユリディケ』冒頭の詩は、〈サラファーンの星〉四部作とこの後日譚を結ぶ詩です。

四部作に登場するある人物が作ったという設定で、その人の名は『ユリディケ』の本文中に

出てきますので、名前だけは、そのときから決まっていました。

(でも『ユリディケ』を書いている間は、彼に関してはほとんど何も知りませんでした。)


改稿にあたり、漢字を二か所変えましたが、読みは同じです。

(序まり→始まり 雪溶け→雪解け)

また、クリックしてページを開けるようタイトルをつけました(これ、悩みました!)


 明日から新たに訪れる令和の時代が、平和で光に満ちた時代となるよう祈りながら、

平成最後のブログをしめくくりたいと思います。


  〈ユリディケの歌〉

  やがて闇が天を覆い
  氷が地を閉ざすとも
  暗黒の長き冬は
  始まりの前の終焉

  死の吹雪の彼方から
  生の息吹はめぐりくる
  早春のヴェールをまとい
  女神リーヴが地に降りたつ

  あらたなる祝福に
  大地は永い眠りから醒め
  大いなる栄光に
  歓びの賛歌を謳う

  雪解けの水は調べ
  若草は野に萌えたち
  時満ちて戻りしもの
  天使ユリディケが矢を放つ

  青く輝く生命(いのち)の矢は
  失われし光を降りそそぐ
  偽りの永遠は無に還り
  真実の永遠が甦る